腎臓のネフロンはどこにでき、尿路集合系とどうつながるのか-初期ネフロンと尿路集合系の空間関係-
北沢さんは修士の研究で、ヒト胚における初期ネフロンの分布と、尿路集合系(urinary collecting system: UCS)との位置関係を三次元的に解析し、腎臓の発生初期における構造形成の特徴を明らかにしました。
その結果、新しくできるネフロンは主に腎の表面近くに分布し、成熟に伴って内側へ移動する一方、集合系との接続部は表面近くに保たれること、またネフロンが付着した末端枝では先端分岐が抑えられ、付着部より近位での分岐が続く可能性が示されました。
本研究成果は、2020年9月5日に公開されました。
研究の背景

ヒトの最終腎である後腎は、大きく分けて2つの要素からできています。
- 尿路集合系(UCS)
尿を集めて尿管へ送る樹状の管構造 - ネフロン
血液をろ過して尿をつくる基本単位
これらは密接に関わりながら発生しますが、それぞれの成長の仕方は同じではありません。
とくにネフロン数は、ヒトでは個体差が大きく、その数は胎児期に決まると考えられています。
そのため、初期ネフロンがどこに分布し、どのように集合系とつながるのかを知ることは、腎発生の理解だけでなく、将来の腎機能や腎疾患の理解にも重要です。
そこで本研究では、ヒト胚の後腎を対象に、集合系の枝分かれと初期ネフロンの位置関係を三次元的に詳しく解析しました。
研究の方法
本研究では、京都大学の京都コレクションに保存されているCS19〜CS23のヒト胚31例、計62腎を対象に解析を行いました。
各標本について、後腎を含む連続組織切片をデジタル化し、
- 尿路集合系の枝
- 分岐点
- 末端枝の先端
- ネフロンの接続点
- 腎小体(renal corpuscle)
を三次元再構築しました。
さらに、ネフロン形成の進行度に応じて、初期ネフロンをphase 1〜5に分類し、
それぞれがどの枝に、どこで、どのように接続しているかを定量的に調べました。
主な結果
1. 初期ネフロンは、主に後腎の表面近くに分布していました
三次元再構築の結果、腎小体は後腎の特定の一部ではなく、全体に広く分布していました。
ただし、その多くは尿路集合系の末端枝の周囲にあり、特に後腎の表面に近い領域に集中していました。
未熟なネフロンほど表面近くに多く、成熟したネフロンはやや内側に位置していました。
これは、新しいネフロンが表層で形成され、その後の発達とともに、位置関係が変化していくことを示しています。
2. ネフロンの接続部は表面近くに残り、成熟した腎小体はそこから離れていきました
ネフロンが集合系と接続するattachment point(AP)は、発生が進んでも比較的末端枝の先端近く、すなわち表面近くに保たれていました。
一方で、成熟した腎小体はAPからより離れた位置に見られました。
このことから、ネフロンが成熟する過程では、接続部そのものが大きく移動するのではなく、接続部から腎小体までの管状部分が伸長すると考えられます。
つまり、将来の尿細管となる部分が伸びることで、腎小体が相対的に深部へ配置されていく可能性が示されました。
3. 発生が進むにつれて、ネフロン数は急速に増加しました
腎小体はCS19で初めて明瞭に出現し、その時点ではまだ数が少なく、多くが未熟で集合系に接続していませんでした。
しかし、発生が進むとネフロン数は急速に増加し、CS23では1腎あたり平均273.8個に達しました。
また、この時期には、集合系に接続しているより成熟したネフロンの数が、未接続の未熟ネフロンより多くなっていました。
これは、腎発生の終盤に向けて、ネフロン形成と集合系への統合が急速に進むことを示しています。
4. ネフロンは末端枝に preferentially 付着していました
集合系の枝を調べると、ネフロンは非末端枝よりも末端枝に有意に多く接続していました。
この傾向は発生が進むほど明瞭になり、とくにCS22〜CS23では、成熟段階に関係なく末端枝への付着が優位でした。
つまり、ネフロン形成はランダムに起こるのではなく、集合系の末端部が主要な誘導・接続の場になっていることが分かります。
5. ネフロンが付着した末端枝では、先端での分岐が止まり、近位での分岐が続く可能性が示されました
本研究で特に重要だったのは、ネフロンが付着した末端枝と、まだ付着していない末端枝とで、枝の世代数に差がみられたことです。
多くの標本で、ネフロンが付着していない末端枝の方が、より高い世代数を示していました。
さらに分岐パターンを解析すると、ネフロンが付着した枝では先端そのものでの分岐は続きにくく、付着部のより近位側で新たな分岐が起こるモデルが考えやすいことが分かりました。
研究ではこれを、
- tip splitting:枝の先端での分岐
- lateral branching:付着部より近位での側方分岐
として考え、ヒト胚腎では、ネフロンが付着した末端枝はtip splittingを続けにくい一方、lateral branchingは継続する可能性を示しました。
この研究の意義
本研究は、ヒト胚の腎臓において、初期ネフロンの空間分布と尿路集合系との関係を三次元的に定量解析した研究です。
今回の成果から、
- 新しいネフロンは後腎の表面近くで形成されること
- ネフロンの成熟に伴い、腎小体は内側へ移る一方、接続部は表面近くに保たれること
- ネフロンは主に末端枝に付着すること
- ネフロン付着後の集合系は、先端分岐ではなく側方分岐で成長を続ける可能性があること
が明らかになりました。
これらは、ヒト腎発生における「集合系の枝分かれ」と「ネフロン形成」が、単に並行して進むだけでなく、互いに影響し合いながら空間的に組織化されていくことを示しています。
今後の展望
本研究はヒト胚期の初期段階に焦点を当てたものですが、今後は胎児期以降まで対象を広げることで、ネフロン数の増加や集合系の成熟がどのように続くのかをさらに明らかにできると考えられます。
また、今回示された分岐モデルがどのような分子機構や細胞間相互作用によって支えられているのかを検討することも、今後の重要な課題です。
われわれの研究室では今後も、三次元形態解析を通じて、ヒト腎発生の実像に迫っていきます。
論文情報
論文タイトル
Nascent nephrons during human embryonic development: Spatial distribution and relationship with urinary collecting system
著者
Haruka Kitazawa, Sena Fujii, Hana Ishiyama, Jun Matsubayashi, Aoi Ishikawa, Shigehito Yamada, Tetsuya Takakuwa
公開日
2020年9月5日
DOI
https://doi.org/10.1111/joa.13308
ひとこと
腎臓は、枝分かれする集合系と、新たに生まれるネフロンが組み合わさってできる、とても精巧な器官です。
今回の研究では、その初期段階で「どこにネフロンができ、どうつながるのか」を立体的に見ることで、腎発生のルールの一端が見えてきました。
ヒトの正常な腎形成を理解することは、将来の腎機能や先天性腎疾患の理解にもつながる重要な基礎研究だと考えています。

