胚子期末の足はどのように形づくられるのか-足関節と足部の骨の位置変化を三次元的に解明-
私たちの研究室では、ヒトの発生過程におけるからだの形づくりを、5年ほどかけて高解像度画像と三次元再構築を用いて調べています。今回、発生後期の胚子期から胎児初期にかけて、足関節と足部の骨の位置関係がどのように変化するのかを詳しく解析し、その成果を発表しました。
本研究成果は、2025年7月10日に The Anatomical Record にオンライン掲載されました。
研究の背景

ヒトの下肢は、胚子期の終わりごろに「祈る足(praying feet)」と呼ばれる特徴的な姿勢を示します。この時期の足は、親指が頭側を向き、足底が内側を向く、独特の向きをしています。また、足関節では一時的に生理的内反足がみられることが知られています。
このような発生途中の足の姿勢は、先天性内反足の成り立ちを理解する手がかりになるだけでなく、胎児超音波や胎児MRIでの形態評価にも関わる重要なテーマです。しかし、足関節や足部は立体的な構造が非常に複雑で、通常の切片観察だけでは骨どうしの空間的な位置関係を正確に理解することが難しいという問題がありました。
過去にも解剖学的研究や組織学的研究は行われてきましたが、発生段階をきちんとそろえたうえで、三次元的に骨格を再構築し、足の姿勢変化を系統的に解析した研究は限られていました。
研究の方法
本研究では、ヒト胚子17例(CS20〜23)とヒト胎児6例を対象とし、小さい標本にはPCX-CT、より大きい標本には7テスラMRIを用いて高解像度画像を取得しました。これらの画像から、脛骨、腓骨、距骨、踵骨を中心とした骨格要素を三次元的に再構築しました。
得られた三次元画像を用いて、
- 前方からみた骨の傾き
- 後方からみた下腿と後足部の関係
- 側方からみた足関節の底屈
- 足底からみた足の幅や前足部・後足部の割合、足根骨と中足骨の角度
を評価しました。
さらに、骨の長さの比率や複数の角度を測定することで、見た目の印象だけでなく、足部姿勢の変化を定量的に追跡しました。
主な研究成果
1.後足部は成長とともに連続的に回外していた
三次元再構築により、距骨と踵骨からなる後足部は、発生の進行にともなって足の軸に沿って連続的に回外していくことが分かりました。
この変化は単純な一方向の回転ではなく、足関節の底屈の減少とも連動しているため、二次元的な観察だけでは理解しにくい、複雑な三次元変化でした。
2.前足部は足の軸に沿って回内し、内転していた
一方で、前足部では、足底からみると各中足骨がしだいに互いに近づき、扇状に広がった形が失われていくことが確認されました。
つまり、発生初期の前足部は広がった形をしていますが、成長とともに前足部が回内し、内転することで、よりまとまった足の形へと変化していきます。
3.足関節の底屈は徐々に減少した
胚子期初期では、足関節は強い底屈、いわゆる尖足に近い状態を示していました。しかし成長とともに、この底屈角度は徐々に小さくなっていきました。
この変化によって、下腿の軸と足の軸がしだいに分かれて認識されるようになり、足全体の姿勢変化がより複雑に見えるようになります。
4.生理的内反足は、複数の位置変化が組み合わさって生じていた
本研究から、発生初期に見られる生理的内反足は、単一の骨の移動や単純な関節の傾きだけで説明できるものではなく、
- 後足部の回外
- 前足部の回内・内転
- 足関節底屈の減少
という複数の変化が重なり合って生じることが示されました。
5.骨の「形の変化」そのものが、位置関係の変化に関わっていた
距骨や踵骨は、発生の進行に伴って大きさだけでなく、形そのものも変化していきます。
たとえば踵骨では踵骨隆起や載距突起の形成が進み、距骨でも関節面を含む形の分化が進みます。こうした骨の形の変化が、骨どうしの相対的位置関係に影響し、足関節や足部の形づくりに関わっていることが示されました。
これは、単純に骨が「動いた」と考えるのではなく、**各構造が異なる速度で成長・分化する“差次的成長”**の考え方が、足部形態形成にも当てはまる可能性を示しています。
この研究のポイント
- 胚子期後期〜胎児初期の足関節・足部骨格を三次元的に再構築しました。
- 後足部の回外、前足部の回内・内転、足関節底屈の減少が、生理的内反足を理解する鍵であることを示しました。
- 腓骨が踵骨を押すという従来説を支持せず、骨の形の変化そのものが重要であることを示しました。
研究の意義
本研究は、ヒトの足関節と足部が発生の中でどのように姿勢を変えていくのかを、三次元的かつ定量的に示した点に大きな意義があります。特に、生理的内反足という一見複雑な現象を、骨格要素の位置関係と形の変化から整理したことで、先天性内反足の病態理解に向けた基礎的知見が得られました。
また、胎児期の足の向きや骨格の見え方を理解することは、超音波検査やMRIによる出生前診断にも役立つ可能性があります。発生途中の「正常な一時的姿勢」を正しく知ることは、正常と異常を見分けるうえでとても重要です。
今後の展望
今回の研究では骨格要素に注目して解析を行いましたが、足部の形づくりには、筋、腱、周囲の間葉組織、関節形成の進行なども関わっています。今後は、こうした軟部組織の発達もあわせて三次元的に解析することで、足関節・足部形成の理解をさらに深めていく予定です。
また、今回のような発生段階ごとの詳細な三次元データは、ヒト発生学の基礎研究だけでなく、先天異常の成り立ちを考えるうえでも重要な基盤になります。
論文情報
タイトル
Changes in the position of skeletal elements of the ankle and foot during late embryonic and fetal periods
著者
Tetsuya Takakuwa, Kouki Matsuda, Yuki Yamato, Syotaro Tamura, Kentaro Kimura, Sena Fujii, Toru Kanahashi, Akio Yoneyama, Hirohiko Imai, Hiroki Otani, Shigehito Yamada
掲載誌
The Anatomical Record
公開日
2025年7月10日
DOI
https://doi.org/10.1002/ar.70014
ひとこと紹介
ヒトの足は、発生の初期には大人とは大きく異なる向きをしています。本研究では、足関節と足部の骨を三次元的に再構築することで、発生途中にみられる生理的内反足が、後足部・前足部・足関節それぞれの連続した位置変化によって生じることを明らかにしました。

