眼を動かす筋肉はどのように形づくられるのか-外眼筋の形成ー
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眼を動かす筋肉はどのように形づくられるのか-外眼筋の形成ー

私たちは目を動かすとき、普段はそのしくみをほとんど意識しません。
しかし、眼球の動きは、眼窩の中にある小さな筋肉群によって精密に制御されています。
この筋肉群は外眼筋と呼ばれ、眼球を上下左右、さらに回旋方向へ動かす重要な役割を担っています。

大坂さんは修士研究で、ヒト胚子期から初期胎児期にかけて、外眼筋がどのように形づくられ、どのように成長していくのかを、MRI画像を用いて三次元的に解析しました。

外眼筋は、全身の骨格筋の中でも発生学的に特徴的な筋肉です。
多くの骨格筋よりも早い時期から形成され、発生起源や神経支配も独特です。
これまで組織切片を用いた研究により、外眼筋の発生時期や由来は調べられてきましたが、三次元的な形や成長を定量的に示したデータは限られていました。

本研究では、京都コレクションのヒト胚子・胎児標本を用い、頭殿長20〜86 mmの時期における外眼筋と眼球をMRIから三次元再構築しました。
その結果、胚子期後期には、眼球運動に関わる6つの外眼筋がMRI上で認識でき、初期胎児期にかけて基本的な形を保ちながら成長していくことが分かりました。

特に、上斜筋は滑車を通る部位で大きく向きを変える特徴的な走行を示し、その曲がり角度が発生とともに変化することが明らかになりました。


外眼筋とは

外眼筋は、眼球を動かす筋肉です。
眼窩の中にあり、眼球の表面に付着して、左右の眼球運動を細かく調節しています。

眼球運動に関わる外眼筋は6つあります。

  • 上直筋
    眼球を主に上方へ動かす筋肉
  • 下直筋
    眼球を主に下方へ動かす筋肉
  • 内側直筋
    眼球を内側へ動かす筋肉
  • 外側直筋
    眼球を外側へ動かす筋肉
  • 上斜筋
    滑車を通って向きを変え、眼球を下方・外側・内旋方向へ動かす筋肉
  • 下斜筋
    眼球を上方・外側・外旋方向へ動かす筋肉

これらに加えて、上まぶたを引き上げる上眼瞼挙筋も眼窩内に存在します。

外眼筋は、ただ眼球に付着しているだけではありません。
それぞれが異なる方向から眼球に力を加え、互いに協調して働くことで、私たちは滑らかで正確な眼球運動を行うことができます。


研究の背景

外眼筋は、通常の骨格筋とは少し異なる特徴をもっています。

発生学的には、外眼筋は比較的早期に形成されます。
過去の組織学的研究では、外側直筋、上斜筋、上直筋、内側直筋、下直筋、下斜筋などの原基が、胚子期の早い段階で認識されることが示されてきました。

また、外眼筋の発生起源も特徴的です。
動眼神経に支配される筋群と、滑車神経・外転神経に支配される筋群では、由来する間葉組織が異なると考えられています。

これまでの研究では、主に組織切片を用いて外眼筋の発生が調べられてきました。
組織切片は細胞レベルの観察に優れていますが、筋肉全体の立体的な走行や、眼球・視神経との位置関係を把握するには限界があります。

近年、MRIや三次元画像解析技術の進歩により、ヒト胚子・胎児の小さな構造を非破壊的に観察できるようになってきました。
そこで本研究では、MRI画像を用いて外眼筋を三次元再構築し、形態と成長を定量的に解析しました。


研究の方法

本研究では、京都大学の京都コレクションに保存されているヒト胚子・胎児標本を用いました。

対象は、頭殿長20〜86 mmのヒト標本27例です。
このうち、詳細な形態計測が可能であった24例、48眼窩を主な解析対象としました。

MRI撮像には、7テスラの高磁場MRIを用いました。
得られたT1強調MRI画像から、外眼筋と眼球を手作業で抽出し、三次元再構築を行いました。

解析では、各外眼筋について以下を評価しました。

  • 筋肉の形態
  • 筋肉の走行
  • 起始と停止の位置関係
  • 筋長
  • 筋体積
  • 平均断面積
  • 眼球体積との関係

また、上斜筋については、滑車部で曲がる角度である滑車角を測定しました。
さらに、左右の視神経がなす角度を用いて、発生に伴う眼球の向きの変化も評価しました。


主な結果

1. 胚子期後期には、6つの外眼筋がMRIで確認できました

Carnegie stage 22〜23の胚子期後期には、眼球運動に関わる6つの外眼筋をMRI上で認識することができました。

観察された6つの筋は、

  • 上直筋
  • 下直筋
  • 内側直筋
  • 外側直筋
  • 上斜筋
  • 下斜筋

です。

左右差は明らかではなく、左右の眼窩で外眼筋はほぼ対称的に形成されていました。
このことから、胚子期後期の時点ですでに、眼球運動を担う基本的な筋配置が整っていることが分かりました。


2. 4つの直筋は、基本的な形を保ちながら協調して成長しました

上直筋、下直筋、内側直筋、外側直筋の4つの直筋は、眼窩の後方にある総腱輪付近から起こり、眼球へ向かって走行します。

本研究では、これら4つの直筋が、胚子期後期から初期胎児期にかけて、基本的な走行を保ちながら成長していくことが分かりました。

直筋群の長さや平均断面積は、比較的そろったパターンで増加していました。
これは、4つの直筋が眼球を上下左右に動かすために、互いに協調して発達していることを示していると考えられます。


3. 外側直筋は、初期胎児期に最も大きい外眼筋でした

初期胎児期の標本では、外側直筋が多くの例で最も大きな体積を示しました。
また、平均断面積も外側直筋で大きい傾向がありました。

外側直筋は眼球を外側へ動かす筋肉です。
胎児期には、眼球運動が徐々に観察されるようになりますが、初期の眼球運動では外側方向の動きが目立つ可能性が報告されています。

今回の外側直筋の発達は、こうした初期の眼球運動の特徴と関連している可能性があります。


4. 上斜筋は、最も特徴的な形態変化を示しました

6つの外眼筋の中で、最も特徴的な形態変化を示したのは上斜筋でした。

上斜筋は、眼窩の内側を前方へ走り、滑車という構造を通ったあと、向きを変えて眼球の表面へ向かいます。
この「滑車で向きを変える」という走行が、上斜筋の大きな特徴です。

胚子期の上斜筋では、滑車部での曲がり角度はほぼ直角に近いものでした。
しかし、初期胎児期になると、この角度はより鋭角になり、およそ40〜50度程度まで変化しました。

つまり、上斜筋は単に大きくなるだけではなく、眼球や眼窩の発達に合わせて走行そのものを大きく変化させていました。


5. 上斜筋の形態変化は、眼球の向きの変化と関連していました

本研究では、左右の視神経がなす角度を用いて、眼球の向きの変化も評価しました。
発生が進むにつれて、視神経角の半分はおよそ50度から35度へと小さくなり、成人に近い眼球の向きへ近づいていきました。

興味深いことに、上斜筋の滑車角の変化は、この眼球の向きの変化とよく相関していました。

これは、上斜筋の走行の再構築が、眼球の位置や向きの変化と協調して進むことを示しています。
眼球だけが動くのではなく、それを動かす筋肉の経路も、眼球の発達に合わせて整えられていくと考えられます。


6. 下斜筋と上斜筋は、直筋とは異なる成長パターンを示しました

直筋群では、平均断面積が比較的似た速度で増加していました。
一方、斜筋である下斜筋と上斜筋では、直筋とは異なる成長パターンが見られました。

特に上斜筋では、平均断面積の増加が他の筋より小さい傾向がありました。
これは、上斜筋が滑車を介して走行する特殊な構造をもつことや、筋と腱の境界が発生中に変化することと関係している可能性があります。

つまり、外眼筋はすべて同じように成長するのではなく、直筋群と斜筋群で異なる発達様式を示すことが分かりました。


7. 外眼筋の成長は、眼球の成長と強く関連していました

眼球体積と外眼筋の成長を比較すると、外眼筋の長さ、体積、平均断面積はいずれも眼球の成長と強く相関していました。

また、外眼筋全体の体積と眼球体積の比は、多くの標本でおおむね一定の範囲に保たれていました。

これは、眼球が大きくなるのに合わせて、外眼筋も適切な大きさに成長していることを示しています。
眼球と外眼筋が協調して発達することで、将来の眼球運動に必要な解剖学的・力学的関係が整えられていくと考えられます。


この研究の意義

本研究は、ヒト胚子期から初期胎児期における外眼筋を、MRI画像から三次元再構築し、形態と成長を定量的に解析した研究です。

今回の成果から、

  • 胚子期後期には6つの外眼筋がMRI上で確認できること
  • 外眼筋の基本的な配置は、初期胎児期まで大きく保たれること
  • 4つの直筋は協調的に成長すること
  • 外側直筋は初期胎児期に最も大きい外眼筋であること
  • 上斜筋は滑車部での曲がり角度が発生とともに大きく変化すること
  • 上斜筋の形態変化は眼球の向きの変化と関連すること
  • 斜筋は直筋とは異なる成長パターンを示すこと
  • 外眼筋の成長は眼球の成長と強く連動すること

が明らかになりました。

これらの知見は、正常な眼窩・眼球運動系の発生を理解するための基礎資料です。
また、斜視、外眼筋形成異常、先天性上斜筋麻痺、眼窩形成異常などを発生学的に理解するうえでも重要です。


臨床とのつながり

外眼筋の形成や走行に異常があると、眼球運動に影響が生じる可能性があります。
たとえば、先天性上斜筋麻痺は、小児の上下斜視の中でもよく知られた疾患で、上斜筋腱やその停止部の発達異常と関連すると考えられています。

本研究で示した上斜筋の滑車部での角度変化や、眼球の向きとの協調的な発達は、こうした先天性眼球運動異常の発生学的背景を理解する手がかりになる可能性があります。

また、外眼筋は眼球の成長と密接に関係しているため、眼球や眼窩の発達異常を考える際にも、筋肉の形態を同時に評価することが重要です。


従来の研究との違い

これまでの外眼筋発生研究は、主に組織切片による二次元的観察に基づいていました。
これらの研究は、外眼筋の由来や出現時期を知るうえで非常に重要です。

一方、本研究ではMRI画像を用いることで、外眼筋全体の立体的な走行や眼球との関係を、非破壊的に解析することができました。

特に、

  • 6つの外眼筋を三次元的に再構築したこと
  • 筋長、体積、平均断面積を定量化したこと
  • 上斜筋の滑車角を測定したこと
  • 眼球の成長・向きと外眼筋の発達を対応づけたこと

が、本研究の特徴です。

外眼筋を「眼球を動かす筋肉」としてだけでなく、発生中の眼球・眼窩とともに形を整えていく構造として捉えた点に意義があります。


今後の展望

今後は、外眼筋と眼窩発生をさらに詳しく理解するために、

  • より早期の外眼筋原基の三次元解析
  • 筋と腱の境界を明確にした解析
  • 滑車形成と上斜筋走行の関係
  • 動眼神経・滑車神経・外転神経との位置関係
  • 眼窩骨格や結合組織との相互作用
  • 眼球運動開始時期との関連
  • 斜視や外眼筋形成異常例との比較
  • 高解像度画像や組織学的解析との統合

を進めることで、眼球運動系がどのように形成されるのかをより深く理解できると考えられます。


論文・研究情報

論文タイトル
Morphogenesis of the extraocular muscles during the human embryonic and early fetal periods

著者
Miho Osaka, Shigehito Yamada, Hirohiko Imai, Tetsuya Takakuwa

Congenital Anomalies, 2026

キーワード
extraocular muscle, human embryo, human fetus, magnetic resonance imaging, morphogenesis


ひとこと

眼球は、発生中に大きさや向きを変えながら成長します。
その眼球を動かす外眼筋もまた、眼球に合わせて長さや太さ、走行を整えていきます。

今回の研究では、外眼筋の基本的な形が胚子期後期にはすでに整っている一方で、上斜筋のように発生中に大きく走行を変化させる筋もあることが分かりました。
眼球と外眼筋は、別々に発達するのではなく、互いに位置関係を保ちながら協調して成長していると考えられます。

小さな眼窩の中で、眼球を精密に動かすための筋肉配置が早い時期から整えられていく過程を知ることは、正常な視覚器発生を理解するだけでなく、先天性斜視や眼球運動異常を考えるための大切な基盤になると考えています。