大腿骨は、どのように形成されるのか
鈴木さんは修士研究で、ヒト胚の大腿骨が胚期から早期胎児期にかけてどのように形成されるのかを、高解像度の三次元画像解析を用いて詳しく調べました。
その結果、CS18で軟骨として初めて認識できるようになり、CS20での初期の骨化が始まるまでの間に、大腿骨の主要な解剖学的ランドマークが形成されることが分かりました。
また、肋骨や脊椎との位置関係が大腿骨の成長に影響を与えることも示唆されました。
本研究成果は、2019年8月23日に公開されました。
研究の背景

大腿骨は、ヒトの下肢の中で最も大きな骨であり、内臓の保護や運動機能に重要な役割を果たします。
大腿骨は、胚期にはまず間葉組織の凝縮として現れ、その後軟骨化を経て、最終的には内因性骨化によって硬い骨に変わります。
これまでの研究では、大腿骨の骨化中心が出現した後の発達過程に焦点が当てられることが多く、初期の形態形成過程については十分に解明されていない部分がありました。
特に、大腿骨の成長と周囲の構造(肋骨や脊椎)との関係については、詳細な三次元的な解析が行われていませんでした。
そこで本研究では、ヒト胚の大腿骨の形態形成を、Carnegie stage(CS)ごとに三次元的に解析し、成長の過程を詳しく明らかにすることを目指しました。
研究の方法
本研究では、京都大学の京都コレクションに保存されているCS17〜CS23のヒト胚62例を対象に解析を行いました。
画像取得には、位相差X線CT(PXCT)とMRIを用い、肋骨や脊椎との関係を明らかにしました。
各標本の肋骨や脊椎に対して、84のランドマークを設定し、三次元再構築を行いました。
さらに、肋骨の長さや角度、そして大腿骨の長さ(ossified shaft length: OSL)を測定し、発生段階ごとの変化を比較しました。
主な結果
1. 大腿骨はCS18で軟骨として初めて認識されました
解析の結果、CS18の段階で大腿骨は軟骨として明瞭に認識され、CS20では初期の骨化が始まることが分かりました。
軟骨の形成は、胚の成長とともに進行し、主要な解剖学的ランドマークが次第に明確になっていきました。
2. 大腿骨の長さは発生とともに増加しました
すべての肋骨対について、長さを測定したところ、CS17では平均3.05 mmから始まり、CS23では22.56 mmに達しました。
特に第7肋骨で最も長くなる傾向が見られ、肋骨の成長が胸郭全体の発達に大きく寄与していることが示されました。
3. 大腿骨の形状は、主に2つの要素で説明できました
主成分分析を行った結果、肋骨の形状変化は2つの主成分で説明でき、92.7%の変動をカバーしました。
第1主成分は肋骨が体幹を包む形を示し、第2主成分は肋骨の外側への張り出しを反映していました。
4. 大腿骨の成長は、周囲の臓器と密接に関連していました
大腿骨の成長は、心臓や肝臓などの内臓と密接に関連しており、これらの臓器が発生の過程でどのように位置を変えるかが、肋骨の形態にも影響を与えることが分かりました。
特に、心臓と肝臓の位置は、発生の各段階で肋骨の成長と相関していました。
5. 大腿骨の回旋や傾斜は、胎児期にわたって変化しました
大腿骨の頸部傾斜(FNA)や骨幹角度(FNS)は、発生に伴って変化し、特に上位肋骨では成長の過程で顕著な変化が見られました。
これにより、肋骨の形状が単に成長するだけでなく、周囲の構造との相互作用によっても影響を受けることが示唆されました。
この研究の意義

本研究は、ヒト胚の大腿骨形成について、三次元的に詳細に解析した研究です。
今回の成果から、
- 大腿骨はCS18で軟骨として初めて認識されること
- CS20以降に骨化が始まり、肋骨との関係が明確になること
- 大腿骨の成長は周囲の臓器と密接に関連していること
- 肋骨の形態は共通の発生ルールに従って進行すること
が明らかになりました。
これらの知見は、正常な骨格形成の理解に重要であるだけでなく、骨形成異常や先天性疾患の解明にも寄与することが期待されます。
今後の展望
今後は、肋骨と大腿骨の発生の相互作用をさらに詳しく調べるために、
- 筋肉や関節の発達との関連
- 他の臓器との相互作用
- 発生異常のメカニズムの解明
を進める必要があります。
われわれの研究室では今後も、ヒト胚の骨格形成を三次元的に解析し、正常発生と異常発生のメカニズムを明らかにしていきます。
論文情報
論文タイトル
Morphogenesis of the femur at different stages of normal human development
著者
Yuko Suzuki, Jun Matsubayashi, Xiang Ji, Shigehito Yamada, Akio Yoneyama, Hirohiko Imai, Tetsuya Matsuda, Tomoki Aoyama, Tetsuya Takakuwa
公開日
2019年8月23日
DOI
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0221569
ひとこと
大腿骨は、発生の途中でどのように形づくられていくのか、そしてそれが周囲の臓器とどう関わるのかは、発生学の中でも特に興味深いテーマです。
今回の研究では、肋骨との関係を三次元的に解析することで、正常な発生の過程をより深く理解できる手がかりが得られました。
こうした知見は、将来的には骨格異常や先天性疾患の理解にもつながると期待しています。

