腎内の尿の通り道”はどのように枝分かれするのか
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腎内の尿の通り道”はどのように枝分かれするのか

石山さんは修士研究で、ヒト胚の腎臓の原基である後腎の中で、尿を集める管のネットワーク、すなわち**尿路集合系(urinary collecting system: UCS)**がどのように形成されるのかを詳しく解析しました。

尿路集合系は、将来、腎臓の中でつくられた尿を集め、腎盂・腎杯を経て尿管へ送るための重要な構造です。
本研究では、京都コレクションのヒト胚標本を用い、連続組織切片から後腎と尿路集合系を三次元再構築しました。
その結果、尿路集合系は胚期の非常に早い段階から急速に枝分かれし、CS23までに最大で第11〜12世代近くまで分岐が進むこと、またCS23で腎盂が急速に拡張し始めることが明らかになりました。

本研究成果は、2018年9月7日に PLOS ONE 誌に掲載されました。


研究の背景

成人の腎臓には、およそ100万個のネフロンがあるとされています。
ネフロンは血液をろ過して尿をつくる基本単位ですが、その尿を集めて運ぶためには、複雑に枝分かれした尿路集合系が必要です。

尿路集合系は、

  • 腎盂
  • 腎杯
  • 集合管
  • 尿管

へとつながる一連の管構造で、腎臓の機能を支える「排水路」のような役割を担っています。

この集合系は、発生の過程で尿管芽が後腎間葉の中へ伸び込み、二分岐を繰り返すことで形成されます。
しかし、ヒト胚において、

  • いつ最初の分岐が起こるのか
  • どのくらいの速さで分岐が増えるのか
  • ネフロン形成と分岐形成はどのような順序で進むのか
  • 腎盂はいつ拡張し始めるのか
  • 腎臓の中で分岐の進み方に偏りがあるのか

については、十分に定量的なデータがありませんでした。

そこで本研究では、ヒト胚の尿路集合系をCarnegie stageごとに三次元再構築し、その分岐形成を形態学的・計測学的に解析しました。


研究の方法

本研究では、京都大学の京都コレクションに保存されているCS14〜CS23のヒト胚50例を対象としました。

各Carnegie stageから複数例を選び、連続組織切片をデジタル化したうえで、

  • 後腎
  • 尿管芽
  • 尿路集合系
  • 腎盂に相当する近位部
  • ネフロン

を同定し、三次元再構築を行いました。

解析では、尿路集合系のすべての分岐点の三次元座標を取得し、

  • 平均分岐世代数
  • 最大分岐世代数
  • 末端分岐数
  • 後腎の長軸長
  • 後腎全体の体積
  • 尿路集合系の体積
  • ネフロン数
  • 尿路集合系につながったネフロン数
  • 腎盂上皮の組織学的変化

をCarnegie stageごとに比較しました。

さらに、腎臓内を極領域と中間領域に分け、分岐の進み方に部位差があるかも調べました。


主な結果

1. 尿管芽はCS14で現れ、CS16までに最初の分岐が起こりました

後腎の形成は、CS14で尿管芽と後腎芽組織が現れるところから始まります。
尿管芽は中腎管から伸び出し、後腎間葉と相互作用しながら発達していきます。

本研究では、尿路集合系の分岐形成がCS15ごろから始まり、CS16までにはすべての標本で第1世代の分岐が認められることが確認されました。

つまり、将来の腎臓の中で尿を集める管のネットワークは、胚発生のかなり早い時期からすでに形成され始めていることになります。


2. 分岐は胚期のあいだに急速に増加しました

尿路集合系は、発生が進むにつれて急速に枝分かれしていきました。

平均分岐世代は、

  • CS17:1.62 ± 0.36
  • CS18:3.05 ± 0.83
  • CS23:8.74 ± 1.60

へと増加しました。

また、最大分岐世代はCS23でおよそ第11世代に達しており、個体によっては第12世代相当まで進んでいることが示されました。
この結果から、尿路集合系はCS23以降まもなく、古典的にいわれる第15世代前後へ到達していくと推測されます。

胚期の終わりまでに、腎臓の中ではすでに非常に複雑な「枝分かれ構造」の基盤がつくられていることが分かりました。


3. 最初は平面的に、やがて立体的に分岐して“腎臓らしい形”になりました

初期の尿路集合系では、第1世代・第2世代の分岐は比較的二次元的に広がっていました。
しかし、第3世代以降の分岐が進むと、枝は三次元的に広がるようになり、後腎は背腹方向にも厚みを増していきました。

その結果、後腎は発生が進むにつれて、単純な球状から、しだいに腎臓らしい豆のような形へ変化していきました。

これは、尿路集合系の分岐パターンが、腎臓全体の形づくりにも深く関わっていることを示しています。


4. ネフロン形成は、集合系の分岐に少し遅れて進みました

ネフロンはCS19から観察されました。
その数は発生とともに増加し、CS23では総ネフロン数が平均で約290個に達していました。

一方で、尿路集合系の末端分岐1本あたりに対応するネフロン数は、

  • CS19:0.21 ± 0.14
  • CS23:1.34 ± 0.49

と低い値でした。

これは、尿路集合系の分岐がまず急速に進み、その後を追うようにネフロン形成と接続が進むことを示しています。
いわば、先に「配管の骨組み」が作られ、そこに尿をつくる単位であるネフロンが順次つながっていく、というイメージです。


5. CS23で腎盂が急速に拡張し始めることが分かりました

本研究で特に重要な発見の一つは、CS23で腎盂に相当する尿路集合系の近位部が急速に拡張することです。

CS23の標本を詳しく見ると、尿路集合系がまだ拡張していない群と、すでに拡張が始まっている群がありました。
拡張群では、尿路集合系の体積が有意に大きく、腎臓全体の体積も大きくなっていました。

また、拡張群では、

  • 総ネフロン数
  • 尿路集合系につながったネフロン数

が有意に多いことも分かりました。

このことから、腎盂の拡張には、尿路上皮の成熟だけでなく、ネフロンが集合系につながり、液体を産生・分泌し始めることが関係している可能性があります。


6. 腎盂上皮はCS23に向けて変化し、拡張に適した構造へ成熟していました

腎盂に相当する近位部の上皮を組織学的に調べると、CS14〜CS22では多列性の円柱上皮様の構造がみられました。
発生が進むにつれて核の位置や細胞質の様子が変化し、CS22ごろには上皮表面が厚く不規則な形を示すようになりました。

CS23では、拡張していない群では上皮が折りたたまれたように重なっていましたが、拡張群では薄い単層立方上皮様となっていました。
これは、腎盂上皮が拡張に対応できるように成熟していることを示唆します。

つまり、腎盂の拡張は単に管が広がるだけではなく、上皮の分化と力学的変化が組み合わさって起こる現象と考えられます。


7. 分岐の進む速さは腎臓内で一様ではありませんでした

尿路集合系の分岐は、腎臓の中で均一に進むわけではありませんでした。
解析の結果、上極・下極に向かう領域では、腎臓の中間部に向かう領域よりも分岐世代が有意に多いことが分かりました。

つまり、腎臓は単純に扇状に広がるのではなく、上極・下極方向へより強く伸びながら形づくられていきます。
この分岐速度の偏りが、後腎を頭尾方向に長くし、将来の腎臓に特徴的な豆のような形を作る一因になっていると考えられます。


この研究の意義

本研究は、ヒト胚における尿路集合系の分岐形成を、Carnegie stageに基づいて三次元的・定量的に解析した研究です。

今回の成果から、

  • 尿管芽はCS14で出現すること
  • 尿路集合系の最初の分岐はCS16までに起こること
  • CS23までに最大で第11〜12世代近くまで分岐が進むこと
  • ネフロン形成は集合系の分岐に少し遅れて進むこと
  • CS23で腎盂が急速に拡張し始めること
  • 腎盂拡張には、ネフロン数や上皮分化が関与する可能性があること
  • 分岐は極領域でより速く進み、腎臓全体の形づくりに関わること

が明らかになりました。

これらの知見は、正常な腎発生の理解に重要であるだけでなく、

  • 水腎症
  • 腎盂・腎杯形成異常
  • 尿路集合系の分岐異常
  • 先天性腎尿路異常
  • 腎機能容量の個人差

を考えるうえでも重要な基礎資料となります。


従来の研究との違い

これまでの古典的研究では、尿路集合系の発達は主に胎児の大きさや二次元切片に基づいて説明されてきました。
しかし本研究では、Carnegie stageに基づいてヒト胚をそろえ、尿路集合系の全体像を三次元的に再構築することで、分岐世代や末端分岐数を定量的に示しました。

特に、腎盂拡張がCS23という胚期の終わりごろにすでに始まることを示した点は重要です。
これは、腎臓が形として完成してから機能を持ち始めるのではなく、形態形成・上皮分化・液体産生が重なり合いながら進むことを示しています。


今後の展望

今後は、尿路集合系の発生をさらに深く理解するために、

  • 腎盂上皮と集合管上皮の境界の同定
  • ウロプラキンなどの分化マーカーを用いた上皮成熟の解析
  • ネフロンと集合系の接続過程の詳細解析
  • 腎盂拡張における液体産生・内圧の役割
  • 胎児期以降の腎杯・集合管リモデリング
  • 先天性腎尿路異常例との比較

を進める必要があります。

われわれの研究室では今後も、ヒト胚の三次元画像解析と組織学的解析を組み合わせ、腎臓がどのように枝分かれし、機能する臓器へ成長していくのかを明らかにしていきます。


論文情報

論文タイトル
Branching morphogenesis of the urinary collecting system in the human embryonic metanephros

著者
Hana Ishiyama, Aoi Ishikawa, Haruka Kitazawa, Sena Fujii, Jun Matsubayashi, Shigehito Yamada, Tetsuya Takakuwa

掲載誌
PLOS ONE

公開日
2018年9月7日

DOI
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0203623


ひとこと

腎臓の中には、尿をつくるネフロンと、その尿を集めて運ぶ管のネットワークがあります。
今回の研究では、その“尿の通り道”が、胚期のあいだに驚くほど速く、しかも場所によって異なるスピードで枝分かれしていく様子が見えてきました。

腎臓は、ただ大きくなるだけではなく、先に複雑な配管の骨組みをつくり、そこにネフロンがつながり、さらに腎盂が広がっていくことで機能する臓器へ近づいていきます。
この精密な発生過程を理解することは、先天的な腎・尿路異常を考えるうえでも大切な土台になります。