左心房と肺静脈は、どのように一体化していくのか-肺静脈取り込みと左心耳形成の過程-
1 min read

左心房と肺静脈は、どのように一体化していくのか-肺静脈取り込みと左心耳形成の過程-

福井さんは、修士課程の研究で左心房、肺静脈、左心耳に注目し、これらが胚子期から胎児初期にかけてどのように形成されるのかを詳しく解析しました。

左心房は、成体では肺静脈から戻ってきた血液を受け取る部屋として知られていますが、その壁は発生学的には単一の起源ではなく、心房本体、左心耳、心房中隔、房室管由来部分、後壁、静脈成分など、複数の由来から構成されます。なかでも、肺静脈が左心房にどのように取り込まれるのか、また左心耳がどのように形づくられるのかは、従来の組織学的研究でも議論が続いてきたテーマです。しかし、これらを三次元的かつ定量的に追跡した研究は限られていました。

そこで本研究では、Carnegie stage 16〜23のヒト胚23例と、頭殿長(CRL)30〜89 mmのヒト胎児19例を対象に、位相コントラストX線CTおよび7テスラMRIを用いて心臓を撮像し、左心房、左心耳、肺静脈を三次元的に再構築しました。さらに、心膜反転部をランドマークとして用い、肺静脈が心膜腔にどこまで取り込まれているかを判定しました。

その結果、共通肺静脈(common pulmonary vein)は、CS17〜18の3標本で確認されました。その後、発生が進むにつれて、左右の肺静脈、さらに4本の肺静脈が左心房背側へと接続する様子が観察されました。特に重要だったのは、心膜反転部の位置です。CS20〜21の一部標本では、心膜反転部はまだ右肺静脈・左肺静脈の2本レベルにありましたが、CS18の1例およびそれ以降の多くのより大きな標本では、4本の肺静脈すべてに心膜反転部が認められました。このことから、胚と心臓をつなぐ背側中隔(dorsal mesocardium)の退縮に伴って、2本レベルと4本レベルの心膜反転部がほぼ同時期に成立することが示唆されました。

また、MRI像と左心房腔の再構築から、左心房本体と静脈成分の境界にヒダ状構造が存在することも確認されました。これは従来、左心房の由来の違いを示す重要なランドマークとされてきた構造です。三次元解析では、4本の肺静脈は左心房背側に対して、外側から内側へ接線方向に流入しており、とくに右側肺静脈の流入角度は左側より大きいことが分かりました。また、上下の肺静脈間距離は、左右の肺静脈間距離より短いことも定量的に示されました。

左心房の静脈成分は、発育に伴って比例的に拡大していました。一方で、静脈成分の右側と左側のあいだに明瞭な境界は現れず、左心房本体との境界は次第に目立たなくなるものの、胎児初期の終わりまでなお識別可能でした。つまり、成体ではなめらかに見える左心房後壁も、発生初期にはその由来の違いをある程度とどめていることが分かります。

肺静脈の断面形態にも違いがありました。4本のうち、左上肺静脈は最も断面積が小さく、最も扁平でした。一方、右上・右下・左下肺静脈は、断面積や形状が比較的近い値を示しました。この左右差は、成人で報告されている肺静脈形態の特徴とも部分的に一致します。

さらに、左心耳については、すべての標本で中央部に大きな容積をもち、末梢に向かって葉状に伸びる構造が観察されました。左心耳口は成長に伴って断面積が増加し、同時により扁平になる傾向を示しました。また、左心房全体の体積の増加に対して、左心耳が左心房全体に占める割合は次第に低下しました。これは、発生に伴って左心房のうち静脈成分の占める割合が相対的に増加することを意味しています。

この研究のポイント

  • ヒト胚・胎児42例を用いて、左心房・肺静脈・左心耳の形成過程を三次元的に解析しました。
  • 肺静脈の心膜腔への取り込みは、背側中隔の退縮に伴って進み、4本の肺静脈レベルで早期に成立することが示されました。
  • 左心房の静脈成分は成長とともに拡大し、左心耳は葉状構造を保ちながら相対的割合を減少させました。

今回の研究は、左心房形成を、肺静脈の左心房壁への取り込みだけでなく、肺静脈の心膜腔への取り込みという視点からも解析した点に大きな特色があります。これまでの研究では主に組織切片による観察が中心でしたが、本研究では三次元再構築により、肺静脈の流入方向、左心房静脈成分の広がり、左心耳の立体構造を、より直感的かつ定量的に捉えることができました。

また、左心房本体と静脈成分の境界に残るヒダ状構造は、三心房心(cor triatriatum sinistrum)のような先天異常を考えるうえでも重要です。さらに、左心耳の形態は成人では心房細動に伴う血栓形成と深く関係することが知られており、その原型が発生初期にどのように形成されるかを理解することは、臨床的にも意味のある基礎情報となります。

今後は、より後期の胎児期や出生後まで含めて解析を進めることで、左心房と肺静脈、左心耳の形態がどのように成人型へ近づいていくのか、さらに詳しく明らかになることが期待されます。

本研究成果は、2023年8月9日Journal of Anatomy 誌にオンライン掲載されました。


論文情報

タイトル
Morphogenesis of the pulmonary vein and left atrial appendage in human embryos and early fetuses

著者
Narumi Fukui, Toru Kanahashi, Jun Matsubayashi, Hirohiko Imai, Akio Yoneyama, Hiroki Otani, Shigehito Yamada, Tetsuya Takakuwa

掲載誌
Journal of Anatomy

公開日
2023年8月9日

DOI
https://doi.org/10.1111/joa.13941


ひとこと紹介

左心房は、肺静脈の取り込みと左心耳の形成を通じて、胚子期から胎児初期に大きく形を変えていきます。本研究では、その過程を三次元的に解析し、左心房後壁の形成や左心耳の成長パターンを明らかにしました。