上腕はいつ・どのように向きを変えるのか-上腕姿勢と肩帯形成の定量化-
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上腕はいつ・どのように向きを変えるのか-上腕姿勢と肩帯形成の定量化-

熊野さんは、卒業研究でヒト上腕の姿勢変化に注目し、胚子期から胎児期にかけての上腕・肩甲骨・肩関節の三次元的位置関係を定量的に明らかにしました。

腹側からみた上肢(肩甲骨・上腕骨)の肢位

ヒト胚子では、Carnegie stage(CS)ごとに上肢の見た目が大きく変化し、とくにCS18〜CS23のあいだでは、肘や手関節、手指の形成とともに、腕全体の姿勢も大きく変わります。こうした姿勢変化は発生段階の判定にも重要ですが、これまでの評価は主に外表から見た印象に基づいており、実際に肩甲骨や肩関節がどのような位置関係にあるのかはほとんど定量化されていませんでした。

そこで本研究では、CS18〜23のヒト胚18例と、CRL 38.7〜225 mmのヒト胎児11例、計29例を対象に、位相コントラストX線CTMRIを用いて、肩甲骨、鎖骨、上腕骨を三次元再構築しました。さらに、肩甲骨関節窩中心、上腕骨顆中心、肩甲棘と内側縁の交点、第1胸椎、第5胸椎などのランドマークを設定し、上腕の姿勢肩甲骨の体幹に対する位置肩甲上腕関節(glenohumeral joint, GH joint)の角度を、屈曲・外転・90度屈曲位での外転の各成分に分けて評価しました。

その結果、上腕の外転角と屈曲角は、いずれもCS20付近で局所的な最大値を示すことが分かりました。まず上腕の屈曲角は、CS18で約50度CS20で約75度まで増加したのち、胎児期にはやや減少し、胎児中期ではおよそ50度前後となりました。一方で、上腕の外転角は、CS18で約50度CS20〜21で約70度まで増加したあと、発生が進むにつれて徐々に減少し、胎児中期には0度に近づく方向へ変化しました。つまり、発生初期には腕が外側へ大きく開いた姿勢をとりますが、その後、体幹に沿うような方向へ近づいていくことが示されました。

また、90度屈曲位でみた外転成分も、CS19で約50度から胎児中期に向かって徐々に減少しました。これに対して、上腕骨の内旋角は胚子期ではほぼ一定で、−10〜10度程度にとどまり、胎児期に入ってから個体差が大きくなる傾向を示しました。

本研究で特に重要だったのは、上腕姿勢の変化を、単に腕の向きだけでなく、肩甲骨の位置変化GH関節の角度変化に分けて解析した点です。

まず、肩甲骨そのものは、胚子期には内向きかつ上向きに位置し、関節窩は頭側かつ腹側を向くという、成人とはかなり異なる独特の配置を示していました。肩甲骨の体幹に対する角度は、CS18〜22では比較的一定でしたが、CS23以降に大きく変化し、胎児期には関節窩がより外側・上方へ向くようになりました。具体的には、肩甲骨の体幹に対する屈曲・外転成分はいずれもCS23以降に増加し、胎児中期にはかなり大きな値に達しました。

一方で、GH関節の角度はこれと逆向きに変化していました。GH関節の屈曲・外転成分は、胚子期には非常に大きな値を示し、CS20〜21で局所的最大値をとった後、胎児期には減少しました。つまり、肩甲骨がある方向へ回転するのに対して、GH関節ではその変化を打ち消すような鏡像的な変化が起きていたのです。そのため、肩甲骨の独特な位置は存在するものの、それ自体は最終的な上腕姿勢に大きくは反映されないことが分かりました。

この点は発生学的に重要です。外から見ると、胚子の腕は非常に特徴的な位置をとっているように見えますが、その背景では、肩甲骨の位置変化とGH関節の位置変化が精密に組み合わさって、上腕全体の姿勢が決まっているのです。

この研究のポイント

  • ヒト胚子・胎児29例を対象に、上腕姿勢と肩帯の三次元的位置関係を定量解析しました。
  • 上腕の外転・屈曲はCS20付近で局所的最大値を示し、その後は外転が徐々に減少しました。
  • 肩甲骨は胚子期に内向き・上向きという独特な位置をとるが、その影響はGH関節の鏡像的変化によって相殺されることが明らかになりました。

今回の研究は、上腕の姿勢変化を、肩甲骨とGH関節という肩複合体の2つの要素に分けて解析した初めての研究です。これにより、これまで外見的にしか捉えられていなかった上肢姿勢が、実際には複数の関節要素の協調的な変化として成立していることが示されました。

また、本研究は、胚子の発生段階判定に新たな視点を与えるものでもあります。従来、CS19〜23の段階判定は、手指や耳介、眼などの外表所見に依存する部分が大きく、個体差もあって難しいことが知られていました。これに対して本研究は、肩甲骨の体幹に対する角度(∠ST)とGH関節角(∠GH)が比較的一定の傾向で変化することを示しており、将来的には超音波画像によるより精密な発生段階推定につながる可能性があります。

こうした知見は、正常な上肢発生の理解に加え、肩帯形成異常や上肢の姿勢異常の理解にも役立つと期待されます。今後は、前腕や手部を含めた全上肢の姿勢変化や、他の関節との連動をさらに詳しく調べることで、ヒト上肢発生の三次元的理解がより深まると考えられます。

本研究成果は、2021年10月3日The Anatomical Record 誌に掲載されました。


論文情報

タイトル
Upper arm posture during human embryonic and fetal development

著者
Yosuke Kumano, Sayaka Tanaka, Rino Sakamoto, Toru Kanahashi, Hirohiko Imai, Akio Yoneyama, Shigehito Yamada, Tetsuya Takakuwa

掲載誌
The Anatomical Record

公開日
2021年10月3日

DOI
https://doi.org/10.1002/ar.24796

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ひとこと紹介

ヒト胚子の腕の姿勢は、見た目以上に複雑です。本研究では、肩甲骨と肩甲上腕関節の三次元的位置関係を定量化し、上腕姿勢が肩帯全体の協調的な変化によって成立することを明らかにしました。