ヒト大脳皮質の層構造はどのように広がるのか
1 min read

ヒト大脳皮質の層構造はどのように広がるのか

寺島さんは、修士課程の研究でヒト大脳皮質のごく初期の層形成に注目し、**presubplate stage(pSP stage)**に相当する時期の皮質層構造を三次元的に再構築し、その成長を定量的に明らかにしました。

ヒト大脳新皮質は、成体ではよく知られた6層構造を持ちますが、その発生はまずpreplateの形成から始まります。その後、**Carnegie stage(CS)21前後(受精後約7週)になると、cortical plate(CP)が初めて現れ、既存のpreplateをmarginal zoneとpresubplate(pSP)に分けます。このpSPは、のちのsubplate(SP)**につながる重要な層であり、神経細胞の移動や回路形成に深く関わります。SPの異常は、統合失調症や自閉スペクトラム症などの発達障害との関連も指摘されており、正常発生の理解は非常に重要です。

これまで、中期胎児期以降のSPについてはMRIによる三次元解析が行われてきましたが、CPが出現した直後のpSP stageにおける層構造の三次元的形成過程は、ほとんど分かっていませんでした。とくに、どの部位から層構造が現れ、それが脳表面上をどのように広がるのかは明らかではありませんでした。

そこで本研究では、Kyoto CollectionのCS20〜23のヒト胚7例と、Blechschmidt Collectionの胎児初期2例(CRL 39 mm、64 mm)、計9例を対象に、連続組織切片をデジタル化し、脳全体および大脳半球の層構造を三次元再構築しました。解析では、ventricular zone(VZ)subventricular zone(SVZ)cortical plate(CP)、そしてHE染色では境界の判別が難しかった**presubplateとintermediate zoneを合わせた層(pSP-IZ)**に注目し、厚さ、表面積、体積を定量化しました。

組織学的には、CS20ではまだ明瞭な層構造は認められませんでしたが、CS21になると中外側部(midlateral region)でCPとpSP-IZが初めて識別可能となりました。CS22ではCPとpSP-IZの境界がより明瞭になり、CS23ではVZ、SVZ、pSP-IZ、CPからなる4層構造がはっきり観察されました。さらに、胎児初期にはpSP-IZが著しく厚くなり、CRL 64 mmの時期には、pSP-IZ内部に染色性の違いによる複数の帯状構造もみられ始めていました。

重要なのは、この層構造の出現が脳全体で一様ではなかったことです。組織切片および三次元モデルの観察から、pSP-IZはCS21では大脳壁の中外側部の限られた領域にのみ出現し、その後、CS22以降にこの領域を中心として前後方向・上方・後方へと急速に拡大していくことが分かりました。胎児初期のCRL 39 mmでは、pSP-IZはすでに大脳半球全体に広がっていました。

三次元モデルによる厚さ解析では、pSP-IZの最も厚い領域は一貫して中外側部に存在していました。この厚い領域は発生の進行に伴って、基底核に近い部位から、より上方・後方へと重心を移していく様子が観察されました。特にCRL 64 mmでは、最も厚い領域は将来の島皮質の原基周囲から外側・上方・後方へ広がっていました。一方で、基底核に近い部位そのものは、この時期には最も厚い上位10%の領域には含まれませんでした。

また、本研究では、層構造が最初に出現した中外側部のすぐ近くに、中大脳動脈(MCA)が走行していることも確認されました。これは、皮質層形成の開始が、血流供給の豊富な領域と関係している可能性を示唆します。さらに、先行研究でこの中外側部は将来の島皮質(insula)に相当する領域と考えられており、本研究の結果は、ヒト大脳皮質の初期層形成が島皮質原基周囲から始まることを三次元的に裏づけるものといえます。

定量解析からも、この発生様式の特徴が明確になりました。pSP-IZおよびCPの最大厚は、CRLの増加とともに大きく増加しましたが、中央値の厚さは比較的ゆるやかな増加にとどまりました。これは、層全体が一様に厚くなるのではなく、局所的に厚い中心を保ちながら、脳表面へ薄く広がっていくことを示しています。つまり、pSP stageにおける層形成の本質は、「厚くなること」よりも、急速な表面拡大にあることが分かりました。

さらに、CP、pSP-IZ、全皮質組織の表面積はいずれもCRLの二乗に比例して増加し、pSP stage終盤には、CPとpSP-IZの表面積はほぼ全皮質組織の表面積に近づきました。また、体積は各層ともCRLの三乗に比例して増加し、CRL 64 mmでは、pSP-IZが全皮質組織の44%, CPが24%を占め、両者あわせて全体の半分以上を構成していました。

この研究のポイント

  • ヒト胚子・胎児初期9例の連続組織切片から、大脳皮質初期層構造を三次元再構築しました。
  • pSP-IZはCS21で中外側部に初めて出現し、その後、島皮質原基周囲から大脳半球全体へ拡大していくことが明らかになりました。
  • pSP stageの層形成は、一様な肥厚よりも、局所的に厚い中心を保ちながら脳表面を薄く広がる成長様式を示しました。

今回の研究は、ヒト大脳皮質の初期層構造形成を、組織学だけでなく三次元空間の中でとらえた初めての研究です。これにより、CP出現直後の皮質層形成が、単に「内側から外側へ層ができる」というだけでなく、特定の脳表領域から急速に広がる空間的な過程であることが示されました。

また、本研究で可視化されたpSP-IZは、のちのsubplate形成につながる重要な前駆構造であり、その正常な成立は、神経細胞移動や神経回路形成に欠かせません。したがって、本研究の成果は、ヒト新皮質の正常発生の理解だけでなく、神経発達障害の発症基盤の理解にもつながる重要な基礎情報です。

今後は、免疫組織化学やMRIデータとの統合解析によって、pSPとIZの境界や細胞集団の性質をさらに詳しく解析することで、ヒト大脳皮質発生の初期イベントがより精密に理解されることが期待されます。

本研究成果は、2021年6月17日Journal of Anatomy 誌にオンライン掲載されました。


論文情報

タイトル
Early development of the cortical layers in the human brain

著者
Mei Terashima, Aoi Ishikawa, Jörg Männer, Shigehito Yamada, Tetsuya Takakuwa

掲載誌
Journal of Anatomy

公開日
2021年6月17日

DOI
https://doi.org/10.1111/joa.13488


ひとこと紹介

ヒト大脳皮質の初期層構造は、受精後約7週ごろに中外側部から現れ、島皮質原基周囲を中心に大脳半球全体へ急速に広がります。本研究は、その過程を三次元的に可視化し、厚さ・表面積・体積の変化として定量的に示しました。