盲腸は臍帯内から腹腔内へ戻る過程で、どこに位置するのか
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盲腸は臍帯内から腹腔内へ戻る過程で、どこに位置するのか

長田さん、八田さんは、ヒト発生において腸管が臍帯内から腹腔内へ戻る過程で、盲腸がどこに位置するのかを三次元的に解析しました。
従来、盲腸は腸管が腹腔内に戻ったあと、上腹部から右下腹部へ「下降」していくと説明されることがありました。
しかし本研究では、盲腸は腹腔内へ戻ると、すぐに右下腹部、すなわち成人に近い位置へ到達することが定量的に示されました。

本研究成果は、2019年7月9日に公開されました。


研究の背景

ヒトの腸管は、胚期に急速に伸長し、一時的に臍帯内の胚外体腔へ突出します。
この現象は生理的臍帯ヘルニアと呼ばれ、正常発生の一部です。

その後、早期胎児期になると、腸管は腹腔内へ戻っていきます。
この「腸管の還納」は、腸回転や腸管配置を理解するうえで非常に重要な過程です。

とくに盲腸は、将来的に右下腹部に位置する構造であり、古典的には、腹腔内に戻ったあとに上腹部から右下腹部へ下降すると説明されることがありました。
しかし、実際に盲腸が還納前後でどこにあるのか、三次元的・定量的に示したデータは限られていました。

そこで本研究では、早期胎児期の三次元MRIデータを用いて、腸管還納前・還納中・還納後の盲腸位置を解析しました。


研究の方法

本研究では、京都大学の京都コレクションに保存されているヒト胎児標本22例を対象としました。
標本は、腸管の状態に応じて以下の3群に分類しました。

  • ヘルニア期:腸管がまだ胚外体腔内にある時期
    5例、CRL 22〜32 mm
  • 移行期:腸管が腹腔内へ戻りつつある時期
    3例、CRL 37、41、43 mm
  • 還納後:腸管が腹腔内へ戻った後の時期
    14例、CRL 44〜69 mm

各標本について、7テスラMRIを用いて三次元画像を取得しました。
そのうえで、盲腸の位置と、椎骨や臍輪などの解剖学的ランドマークを三次元座標上で評価しました。

座標系では、**第8胸椎(Th8)**を基準点とし、体幹内で盲腸がどの方向・高さにあるかを定量的に示しました。


主な結果

1. ヘルニア期の盲腸は、胚外体腔の左側に位置していました

腸管がまだ臍帯内にあるヘルニア期では、盲腸はすべての標本で胚外体腔の左側に位置していました。
これは、中腸一次ループの配置から予想される位置関係と一致しており、過去の研究結果とも整合していました。

つまり、腸管が臍帯内にある段階では、盲腸はまだ右下腹部にはなく、臍帯内で左側に配置されることが確認されました。

2. 腸管が戻った後、盲腸はすぐに右下腹部へ位置していました

一方、腸管が腹腔内へ完全に戻った後の標本では、盲腸は腹腔内の右尾側部に位置していました。
これは、成人でみられる盲腸の位置、すなわち右下腹部に近い配置です。

重要なのは、盲腸が腹腔内に戻った後、長い時間をかけて上腹部から下がるのではなく、還納直後からすでに右下腹部に位置していたことです。

3. 移行期では、盲腸の位置が大きく変化していました

移行期の3例では、盲腸は臍帯内から腹腔内へ戻る過程にあり、その位置はヘルニア期と還納後の中間的な状態を示しました。
盲腸の高さは、ヘルニア期で最も高く、移行期から還納後にかけて直線的に低下していました。

このことから、盲腸の位置変化は、腸管還納の過程で一気に進み、腹腔内に戻った時点で成人型の配置に近づくことが分かりました。

4. 「盲腸下降」という従来の説明を見直す必要が示されました

古典的には、盲腸は腹腔内に戻った後、いったん上腹部に位置し、その後に右下腹部へ下降すると説明されてきました。
しかし本研究のデータは、少なくとも早期胎児期において、盲腸が還納後すぐに右下腹部へ到達することを示しています。

したがって、いわゆる「盲腸の下降と固定」は、従来考えられていたような大きな位置移動としてではなく、腸管還納と同時に成立する配置変化として理解する方が自然である可能性があります。


この研究の意義

本研究は、早期胎児期における盲腸の位置を、三次元MRIデータを用いて定量的に解析した研究です。

今回の成果から、

  • ヘルニア期の盲腸は胚外体腔の左側にあること
  • 腸管還納後の盲腸はすぐに右下腹部に位置すること
  • 盲腸の高さは、還納過程で直線的に低下すること
  • 古典的な「盲腸が後から下降する」という説明は、再検討が必要であること

が明らかになりました。

これらの知見は、正常な腸管還納と腸管配置の理解に重要です。
また、腸回転異常、腸管固定異常、盲腸位置異常などの先天的な消化管形態異常を考えるうえでも、基礎となるデータになります。


今後の展望

今後は、盲腸だけでなく、

  • 小腸ループ全体の移動
  • 上腸間膜動脈との位置関係
  • 腸間膜の伸長と固定
  • 腹壁・臍輪との関係
  • 腸回転異常例との比較

をさらに解析することで、腸管還納と腸管配置のしくみをより深く理解できると考えられます。

われわれの研究室では今後も、ヒト胚・胎児の三次元画像解析を通じて、消化管がどのように正しい位置へ配置されていくのかを明らかにしていきます。


論文情報

論文タイトル
Position of the cecum in the extraembryonic and abdominal coelom in the early fetal period

著者
Akari Nagata, Shinnosuke Hatta, Hirohiko Imai, Shigehito Yamada, Tetsuya Takakuwa

公開日
2019年7月9日

DOI
https://doi.org/10.1111/cga.12348


ひとこと

「盲腸はあとから右下へ下がる」と説明されることがありますが、今回の研究では、腸がお腹に戻った時点で、盲腸はすでに右下腹部に近い位置にあることが分かりました。
腸管発生は、単に“回る”“下がる”という言葉だけでは表せない、立体的でダイナミックな過程です。
三次元解析によって、その実際の動きをより正確に捉えられるようになってきました。