眼は、顔の中でどのように位置を変えていくのか
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眼は、顔の中でどのように位置を変えていくのか

大坂さんは修士研究で、ヒトの顔が形づくられる過程で、眼球関連器官が頭部の中でどのように位置を変えていくのかを三次元的に解析しました。

眼の発生は、まず前脳の側方に眼胞ができることから始まります。
その後、眼杯や水晶体が形成され、顔面の発達とともに、眼はしだいに「顔の一部」として配置されていきます。
しかし、発生初期の眼が、頭部のどの位置からどのように移動して見えるのか、また脳や下垂体などの内部構造とどのような位置関係を持つのかについては、十分に定量的なデータがありませんでした。

本研究では、京都コレクションのヒト胚・早期胎児標本を用い、高解像度MRIおよび位相差X線CTによる三次元画像から、眼球関連器官の位置を解析しました。
その結果、眼はCS16では頭部の外側寄りに位置し、その後、発生に伴って内側へ寄っていくこと、さらにCS17までは神経頭蓋側に位置していた眼が、CS18以降には顔面側、すなわち内臓頭蓋側へ移ることが明らかになりました。

本研究成果は、2017年3月13日に公開されました。


研究の背景

私たちの眼は、顔の正面に左右対称に配置されています。
しかし、発生の始まりから現在の位置にあるわけではありません。

眼の原基は、発生初期には前脳の側方に生じます。
つまり、最初の眼は「顔の正面」にあるというよりも、脳に近い位置、頭部の側方にあります。
その後、顔面の成長、脳の発達、鼻や上顎の形成などが進むなかで、眼はしだいに現在のような位置関係へ近づいていきます。

このような眼の位置変化は、

  • 顔面形成
  • 鼻・上顎の発達
  • 眼窩形成
  • 視神経の走行
  • 脳と顔面の相対的位置関係

と密接に関係しています。

一方で、発生初期の頭蓋顔面では骨がまだ十分に形成されていないため、通常の頭部計測、いわゆるセファロメトリーのような方法をそのまま使うことは困難です。
そこで本研究では、骨ではなく、発生初期から同定できる内部解剖学的ランドマークを基準にして、眼の位置変化を三次元的に解析しました。


研究の方法

本研究では、京都大学の京都コレクションに保存されているヒト胚・早期胎児標本から、明らかな損傷や異常のない56例を対象としました。

対象標本は、

  • CS16:2例
  • CS17:6例
  • CS18:3例
  • CS19:4例
  • CS20:4例
  • CS21:3例
  • CS22:3例
  • CS23:4例
  • CS23以降の早期胎児:27例

で、CRLはおよそ29.2〜85.0 mmまでを含みます。
発生時期としては、受精後およそ6〜11週に相当します。

画像取得には、

  • 位相差X線CT
  • 7テスラMRI

を用いました。
小さな標本には高解像度の位相差X線CTを、大きな標本にはMRIを用い、標本サイズと解像度に応じて適切な方法を選択しました。

三次元画像上で、以下のような構造をランドマークとして同定しました。

  • 水晶体
  • 眼杯
  • 視神経
  • 視交叉
  • 下垂体/間脳漏斗
  • 嗅球
  • 耳珠相当部

特に、左右の嗅球と下垂体を含む平面を基準面として設定し、これを神経頭蓋と内臓頭蓋、すなわち脳側と顔面側を分ける目安として用いました。


主な結果

1. 眼は発生とともに外側から内側へ寄っていきました

三次元再構築画像を正面側から観察すると、CS16では眼は頭部の比較的外側に位置していました。
その後、発生が進むにつれて、左右の眼はしだいに内側へ近づいていきました。

実際に、頭部の横幅は発生に伴って大きく増加しますが、左右の水晶体間距離はそれほど同じ比率では広がりませんでした。
そのため、頭部全体の中で見ると、眼は相対的に内側へ寄っていくことになります。

これは、顔面の成長に伴って、眼が現在のような正面寄りの位置へ配置されていく過程を示しています。


2. CS17までは眼は神経頭蓋側にありました

本研究では、左右の嗅球と下垂体を含む平面を基準にして、眼が脳側にあるのか、顔面側にあるのかを判定しました。

その結果、CS17までは眼は神経頭蓋側、すなわち脳に近い領域に位置していることが分かりました。
この時期の眼は、まだ顔面の一部というよりも、前脳の側方にある器官としての性質が強いと考えられます。


3. CS18以降、眼は顔面側へ位置を変えました

CS18以降になると、眼は基準面よりも顔面側、すなわち内臓頭蓋側に位置するようになりました。
これは、眼が発生の過程で、脳側から顔面側へ相対的に移っていく重要なタイミングを示しています。

この変化は、単に眼そのものが移動しているというよりも、顔面の各部分が異なる速度と方向で成長することによって生じる、相対的な位置変化と考えられます。


4. 眼と下垂体の位置関係も大きく変化しました

側面から観察すると、CS17ごろには眼と下垂体は比較的近い位置にありました。
しかし、発生が進むにつれて、両者の距離は大きくなっていきました。

計測でも、水晶体と下垂体の間の距離はCRLの増加に伴って直線的に増加しました。
また、頭部前後径に対するこの距離の割合も、CS17〜CS18では小さい値でしたが、CS19以降に急速に大きくなり、その後も増加していきました。

これは、脳と顔面が発生の過程で相対的に分かれ、眼が顔面構造の中へ組み込まれていく様子を反映していると考えられます。


5. 視神経の長さと角度も発生に伴って変化しました

眼の位置が変わると、それに伴って視神経の走行も変化します。
本研究では、視神経の長さと、左右の視神経がなす角度も計測しました。

視神経の長さは、CRLの増加に伴って直線的に増加しました。
一方、左右の視神経がなす角度は、CS17では鈍角でしたが、発生が進むにつれて小さくなり、CS23以降では鋭角に近づきました。

これは、左右の眼が相対的に内側へ寄り、視神経の走行がより前後方向に整っていくことを示しています。


6. 眼の位置変化には2つの段階がありました

本研究では、眼の位置変化を大きく2つの段階に分けて考えることができました。

Phase 1:大きく位置が変わる時期

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胚期からCS23ごろまでの時期です。
この時期には、眼は外側から内側へ、また神経頭蓋側から内臓頭蓋側へと、大きく相対的位置を変えます。

この時期には、顔面でも、

  • 前頭鼻隆起の形態変化
  • 鼻窩の形成
  • 上顎の前方成長
  • 一次口蓋の形成
  • 脳と顔面の相対的分離

など、多くの重要な形態変化が進行しています。

Phase 2:位置変化が緩やかになる時期

CS23以降の早期胎児期です。
この時期には、眼の位置変化は比較的安定し、発生初期のような大きな移動は少なくなります。

一方で、顔面では二次口蓋の形成や、下顎・舌の成長などが進み、顔全体の形はさらに成熟していきます。


この研究の意義

本研究は、ヒト胚・早期胎児期における眼球関連器官の位置変化を、三次元画像と内部ランドマークを用いて定量的に解析した研究です。

今回の成果から、

  • 眼はCS16では頭部の外側寄りに位置すること
  • 発生に伴い、眼は相対的に内側へ移動すること
  • CS17までは眼は神経頭蓋側に位置すること
  • CS18以降、眼は内臓頭蓋側、すなわち顔面側へ移ること
  • 眼と下垂体の距離は発生とともに大きくなること
  • 視神経の長さと角度も、眼の位置変化に伴って変化すること
  • 眼の位置変化は、CS23までの大きな変化と、その後の安定化という2つの段階に分けられること

が明らかになりました。

これらの知見は、正常な眼・頭蓋顔面発生を理解するための基礎データとなります。
また、眼間距離の異常、眼窩形成異常、顔面形成異常、前脳・顔面発生異常などを考えるうえでも重要な情報です。


従来の研究との違い

頭蓋顔面の位置関係を調べる方法としては、骨を基準としたセファロメトリーが広く用いられてきました。
しかし、胚期から早期胎児期では骨がまだ十分に形成されていないため、従来の方法では正確な解析が難しいという問題がありました。

本研究では、骨ではなく、

  • 嗅球
  • 下垂体
  • 水晶体
  • 視交叉
  • 視神経

といった、発生初期から同定可能な内部構造を基準にしました。
これにより、骨形成前の時期であっても、眼の位置を三次元的・定量的に評価できました。

さらに、絶対距離だけでなく、角度や比率を用いることで、頭部全体の成長に対する眼の相対的位置変化を明らかにした点が、本研究の特徴です。


今後の展望

今後は、眼と頭蓋顔面の発生をさらに詳しく理解するために、

  • CS13〜CS15のより早期における眼原基の位置解析
  • 眼窩形成との関係
  • 鼻・上顎・口蓋形成との関連
  • 視神経と脳底部の成長との関係
  • 顔面異常例との比較
  • 胎児超音波画像との対応
  • 数理モデルを用いた頭蓋顔面成長の解析

などを進める必要があります。

われわれの研究室では今後も、ヒト胚・胎児の三次元画像解析を通じて、眼や顔面がどのように協調して形づくられるのかを明らかにしていきます。


論文情報

論文タイトル
Positional Changes of the Ocular Organs During Craniofacial Development

著者
Miho Osaka, Aoi Ishikawa, Shigehito Yamada, Chigako Uwabe, Hirohiko Imai, Tetsuya Matsuda, Akio Yoneyama, Tohoru Takeda, Tetsuya Takakuwa

公開日
2017年3月13日

DOI
https://doi.org/10.1002/ar.23588


ひとこと

私たちの眼は、最初から顔の正面に並んでいるわけではありません。
発生のはじめには脳のそば、頭部の側方にあり、顔面が成長していくにつれて、しだいに内側へ、そして顔の中へと配置されていきます。

今回の研究では、そのダイナミックな位置変化を三次元的に追跡することができました。
眼の位置は、眼だけで決まるのではなく、脳、顔面、鼻、上顎、視神経など、多くの構造の成長バランスの中で決まっていきます。
こうした発生の過程を丁寧に理解することは、正常な顔面形成だけでなく、先天的な眼や顔面の異常を考えるうえでも大切な基盤になります。

ABSTRACT