消化管はいつ・どのように臓器のもとを形成するのか
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消化管はいつ・どのように臓器のもとを形成するのか

上野さんは修士研究で、ヒト胚のごく早い時期に、消化管がどのように形づくられ、そこから肺・胃・肝臓・膵臓などの臓器のもとがどのような順序で生じるのかを詳しく解析しました。

消化管は、食道、胃、小腸、大腸へとつながる長い管状の構造です。
しかし発生初期の消化管は、単なる食物の通り道になるだけでなく、そこから多くの重要な臓器が芽を出すように形成されます。
たとえば、

  • 咽頭
  • 甲状腺
  • 呼吸器原基
  • 気管
  • 肝臓
  • 胆嚢
  • 膵臓
  • 総排泄腔

などは、消化管と密接に関係しながら発生します。

本研究では、京都コレクションおよびBlechschmidt Collectionのヒト胚標本を用い、CS11〜CS13、受精後約28〜33日に相当する37例を対象として、連続組織切片から消化管とその派生原基を三次元再構築しました。
その結果、消化管とその派生原基は、CS12からCS13にかけて、非常に短い期間に、しかもきわめて正確なタイムラインに沿って分化することが明らかになりました。

本研究成果は、2016年1月11日に公開されました。


研究の背景

ヒトの発生では、受精後3〜4週ごろに体節期と呼ばれる重要な時期があります。
体節期とは、胚の背側に体節が次々と形成される時期で、将来の脊椎、筋肉、体幹構造などの基本的な配置が整っていきます。

この時期には、体の頭尾軸が明確になり、さらに多くの臓器の原基が短期間に次々と現れます。
消化管もその中心的な構造の一つです。

消化管は、発生初期には卵黄嚢とのつながりから形づくられ、

  • 前腸
  • 中腸
  • 後腸

へと分かれていきます。
さらに、そこから多くの臓器のもとが生じます。

特にCS12からCS13にかけては、わずか数日のあいだに、咽頭嚢、呼吸器原基、胃、肝臓、膵臓、胆嚢、腸管ループなどが次々と形を変えます。
しかし、これまでの研究では、個々の胚の組織切片を詳しく記載したものはあったものの、多数例を用いて、体節数に基づいて精密に並べ直し、三次元的に発生のタイムラインを示した研究は限られていました。

そこで本研究では、体節数を基準に、消化管とその派生原基がいつ、どこに、どのような形で現れるのかを三次元的に解析しました。


研究の方法

本研究では、保存状態が良く、外表上明らかな異常のないヒト胚37例を対象としました。

対象は、

  • CS11
  • CS12
  • CS13

に相当する胚で、受精後およそ28〜33日の時期です。

CS12とCS13は、消化管由来の臓器原基が急速に出現・分化する時期です。
特にCS12では、胚の発生状態をより細かく評価するため、体節数を重要な指標として用いました。

標本は厚さ10 μmの連続組織切片として作製されており、これをデジタル化しました。
その後、各切片上で消化管内腔や原基を同定し、画像解析ソフトを用いて三次元再構築を行いました。

解析した主な構造は以下の通りです。

  • 咽頭
  • 咽頭嚢
  • 甲状腺原基
  • 呼吸器原基
  • 気管
  • 気管分岐部
  • 食道
  • 肝芽
  • 胆嚢
  • 背側膵
  • 腹側膵
  • 小腸
  • 卵黄嚢との連結部
  • 尿膜管
  • 総排泄腔

また、各原基が体の頭尾軸上でどの位置にあるかを、体節との関係から調べました。


主な結果

1. 消化管は、卵黄嚢とのつながりが狭くなることで形づくられました

CS11、16体節期の胚では、卵黄嚢とのつながりはまだ広く、消化管は明確な臓器原基へは分化していませんでした。

その後、CS12に入ると、卵黄嚢と消化管の連結部は徐々に狭くなっていきました。
この狭窄に伴って、胚体内の消化管がより明瞭な管状構造として認識できるようになります。

卵黄嚢との連結部の長さは、16体節胚では約1500 μmでしたが、31体節以降では130 μm未満に短縮していました。
これは、消化管が胚体内の構造としてまとまり、将来の腸管形成へ向かう重要な変化です。


2. 咽頭嚢はCS12から形成され、CS13では4対がそろいました

咽頭領域では、消化管の前方部分が横方向に広がり、扁平な構造へと変化しました。
その後、咽頭嚢が段階的に形成されます。

本研究では、

  • 22体節胚の一部で3対の咽頭嚢を確認
  • 23〜29体節胚では3対の咽頭嚢を確認
  • CS13胚では咽頭嚢がより深く明瞭化
  • CS13では4対の咽頭嚢の分化が完了

することが分かりました。

咽頭嚢は、将来の耳管、中耳腔、胸腺、副甲状腺などの発生にも関わる重要な構造です。
この時期に、頭頸部臓器の基盤がすでに整い始めていることが分かります。


3. 甲状腺原基に先行する一時的な突出が観察されました

咽頭領域では、第一咽頭嚢と第二咽頭嚢のあいだに、消化管内腔側の小さな突出が、一時的に観察されました。

この突出は、

  • 27体節胚
  • 29体節胚
  • 30体節胚

で認められました。

その後、31体節以降の胚では、この位置に甲状腺原基が形成されました。
つまり、この一時的な突出は、甲状腺原基形成に先行する構造である可能性があります。

このような短期間だけ見られる微細な形態変化を捉えられる点は、体節数に基づいて多数例を並べて解析した本研究の大きな特徴です。


4. 呼吸器原基は26体節以降に三次元的に認識されました

将来の気管や肺のもとになる呼吸器原基は、消化管の腹側から生じます。

組織切片では、21〜25体節胚の時点で、腹側上皮が高円柱状になる変化が観察されました。
つまり、細胞レベルでは呼吸器原基の準備が始まっていました。

一方、三次元画像上で明瞭な突出として認識できたのは、26体節胚以降でした。
29体節胚では、呼吸器原基はより明瞭な単一の突出として観察されました。

その後、CS13に入ると呼吸器原基は横方向に広がり、気管分岐部の原始的な形を示すようになりました。


5. 気管は35体節以降に形成され、伸長し始めました

呼吸器原基の発達に伴い、食道と気管が分かれ始めます。

本研究では、35体節以降のCS13胚で、気管と食道の分離点が明確に観察されました。
つまり、この時期に気管が形成され、消化管から独立した呼吸器の管として伸び始めることが分かりました。

さらに36体節以降では、気管の長さが増加し、気管分岐部が尾側へ移動する様子も確認されました。

呼吸器原基は、単に突起として出るだけでなく、

  1. 上皮の性質が変わる
  2. 腹側に突出する
  3. 横方向に広がる
  4. 気管と食道に分離する
  5. 気管が伸びる

という段階を踏んで形成されることが分かりました。


6. 胃は34体節以降に紡錘形として明瞭になりました

CS12の段階では、食道から胃にかけての領域は、まだ明確な胃としては認識できませんでした。
しかし、組織切片では、腹側と背側の上皮の性質に違いが見られ、胃形成へ向かう準備が始まっていることが分かりました。

また、24体節以降では、将来の網嚢に関係する構造が観察されました。

三次元的には、

  • 32体節胚の一部
  • 33体節胚の一部
  • 34体節以降のすべての胚

で、胃が紡錘形の構造として認識されました。

つまり、胃の形態形成はCS13の中でも、体節数に対応して段階的に進むことが示されました。


7. 肝芽はCS12から現れ、35体節以降に肝実質が明瞭になりました

肝臓のもとになる肝芽は、CS11の16体節胚ではまだ認められませんでした。
しかし、CS12の21体節胚では、卵黄嚢開口部の頭側にすでに形成されていました。

27体節胚では肝芽が形成され、29体節胚では三次元的にも明瞭に観察されました。
組織切片では、CS12の段階で高円柱上皮からなる丸い突出として認められました。

CS13ではさらに分化が進み、

  • 30〜34体節胚の一部で、肝細胞が索状に配列
  • 35体節以降のすべての胚で、肝実質の境界が明瞭化

しました。

この結果から、肝臓はCS12からCS13にかけて急速に形と組織構造を整えていくことが分かりました。


8. 胆嚢は30〜34体節で現れ、35体節以降に明瞭になりました

胆嚢原基は、30〜34体節胚で突出として初めて認識されました。
そして、35体節以降のCS13胚では、すべての標本で胆嚢原基が形成されていました。

肝臓と胆嚢は、消化管の近い領域から派生する構造です。
本研究では、肝芽が先行し、その後胆嚢原基が認識されるという時系列が示されました。


9. 背側膵はCS13で明瞭な芽として出現しました

膵臓のもとになる原基には、背側膵と腹側膵があります。

本研究では、背側膵はCS13胚の多くで明瞭な芽として観察されました。
一部のCS13胚では、まだ原始的な突出として認められましたが、CS13の進行とともに芽状構造としてはっきりしていきました。

一方、腹側膵は三次元画像では明瞭に認識できませんでした。
しかし、35体節以上の胚の一部では、組織切片上で高円柱上皮として観察されました。

このことから、腹側膵では、内腔形態の変化よりも先に、上皮の組織学的分化が始まる可能性が示されました。


10. 小腸は35体節以降に原始腸管ループ形成を始めました

中腸領域では、CS12の段階ではまだ大きな湾曲はありませんでした。
しかしCS13に入ると、背側膵の出現に伴って、消化管が腹側方向へ曲がり始めました。

特に、

  • 33体節以降:小腸が背側膵周辺で曲がる
  • 35体節以降:小腸が頭尾軸のまわりに回転し始める
  • 35体節以降:原始腸管ループ形成が開始

することが分かりました。

これは、将来の生理的臍帯ヘルニアへつながる腸管形成の初期段階と考えられます。
従来は、原始腸管ループ形成はCS14ごろに始まるとされていましたが、本研究では、それより早いCS13後半、35体節以降にすでに開始している可能性が示されました。


11. 総排泄腔も段階的に形を変えました

後腸末端に位置する総排泄腔も、CS12からCS13にかけて形態を変化させました。

21〜26体節胚では、総排泄腔は袋状で、横断面では凸状に観察されました。
26体節以降には、総排泄腔より尾側の腸管、すなわち尾腸が徐々に明瞭になりました。

27体節以降では横幅が減少し、背側の径が増加しました。
さらに、36体節以降では、総排泄腔の尾側先端が鋭い形を示しました。

このように、総排泄腔も発生段階に沿って連続的に変化していることが分かりました。


原基の位置は、頭側から順に安定していきました

本研究では、各原基が頭尾軸上でどの位置にあるかも解析しました。
その結果、興味深いことに、原基の位置はすべてが同時に安定するのではなく、頭側から尾側へ向かって順に安定していく可能性が示されました。

たとえば、呼吸器原基や気管と食道の分離点は、CS13では第4体節付近に比較的安定して位置していました。
一方で、胃、肝臓、背側膵などの胸腹部原基はCS12の間に尾側へ移動し、CS13でおおむね位置が定まりました。

さらに、尿膜管や総排泄腔など尾側の構造は、CS13でもなお位置の変化や個体差が大きく、後の段階で安定すると考えられました。


この研究の意義

本研究は、ヒト体節期胚における消化管とその派生原基の形成を、体節数に基づいて三次元的に解析した研究です。

今回の成果から、

  • 消化管は卵黄嚢とのつながりが狭くなることで明瞭化すること
  • 咽頭嚢はCS12から形成され、CS13で4対がそろうこと
  • 甲状腺原基に先行する一時的な内腔突出が観察されること
  • 呼吸器原基は26体節以降に三次元的に認識されること
  • 気管は35体節以降に形成・伸長すること
  • 胃は34体節以降に紡錘形として明瞭になること
  • 肝芽はCS12から形成され、35体節以降に肝実質が明瞭になること
  • 胆嚢は30〜34体節で出現し、35体節以降に明瞭になること
  • 背側膵はCS13で明瞭な芽として観察されること
  • 小腸は35体節以降に原始腸管ループ形成を開始すること
  • 消化管と派生原基の分化は、非常に正確なタイムラインに沿って進むこと

が明らかになりました。

これらの知見は、正常なヒト消化器・呼吸器・内分泌器官の初期発生を理解するうえで重要です。
また、先天性消化管異常、気管食道分離異常、肝胆膵形成異常、腸回転異常などの発生学的背景を考えるための基礎資料となります。


従来の研究との違い

これまで、体節期のヒト胚については、個別の貴重な標本を用いた詳細な記載が行われてきました。
しかし、CS12やCS13では、同じCarnegie stage内でも形態が急速に変化するため、「同じステージ」としてまとめるだけでは、発生の順序を正確に捉えることが難しいという問題がありました。

本研究では、Carnegie stageに加えて体節数を基準として標本を並べ直しました。
これにより、CS12〜CS13の短い期間に起こる形態変化を、より細かい時間軸で整理することができました。

さらに、連続組織切片を三次元再構築することで、

  • 原基の立体的な形
  • 消化管とのつながり
  • 体節との位置関係
  • 原基どうしの相対的位置
  • 頭尾方向への移動

を可視化することができました。

その結果、消化管とその派生原基は、ばらばらに形成されるのではなく、互いに同期しながら、限られた個体差の中で正確に発生していくことが示されました。


今後の展望

今後は、消化管由来臓器の初期発生をさらに深く理解するために、

  • CS10以前からCS14以降までを含めた連続的解析
  • 上皮だけでなく周囲間葉組織との相互作用の解析
  • 肺芽、肝芽、膵芽などの組織分化と形態変化の対応
  • 気管食道分離の詳細な三次元解析
  • 原始腸管ループ形成と生理的臍帯ヘルニアへの移行過程
  • 腸回転異常などの先天異常との比較
  • 胎児超音波や三次元画像診断への応用

を進める必要があります。

われわれの研究室では今後も、ヒト胚・胎児の三次元画像解析を通じて、臓器がいつ、どこで、どのように形づくられるのかを明らかにし、正常発生の基準となるデータを蓄積していきます。


論文情報

論文タイトル
The Digestive Tract and Derived Primordia Differentiate by Following a Precise Timeline in Human Embryos Between Carnegie Stages 11 and 13

著者
Saki Ueno, Shigehito Yamada, Chigako Uwabe, Jörg Männer, Naoto Shiraki, Tetsuya Takakuwa

公開日
2016年1月11日

DOI
https://doi.org/10.1002/ar.23314


ひとこと

消化管は、発生初期には一本の単純な管のように見えます。
しかし実際には、その管から肺、胃、肝臓、膵臓、胆嚢など、さまざまな臓器のもとが次々と生まれていきます。

今回の研究では、その変化が「なんとなく順番に起こる」のではなく、体節数に対応した非常に正確なタイムラインに沿って進むことが分かりました。
わずか数日のあいだに、消化管は臓器形成の中心舞台として大きく姿を変えていきます。

小さな胚の中で、将来の体をつくる設計図が時間通りに展開されていく様子は、まさに発生の精密さを示すものです。
こうした正常発生の時間軸を明らかにすることは、将来、早期の発生異常を見つけるための大切な基盤になると考えています。