側脳室はどのように形を変えるのか
1 min read

側脳室はどのように形を変えるのか

竹谷さんは卒業研究で、ヒト胎児の脳内にある側脳室が、妊娠中期にどのように形を変えながら発達するのかを、MRIデータを用いて三次元的に解析しました。

側脳室は、脳の中にある脳脊髄液を含む空間です。
胎児診断では、側脳室は超音波検査でも比較的観察しやすい構造であり、胎児脳の発達を評価するうえで重要な目印となります。

側脳室が広がりすぎている、狭すぎる、左右差がある、形が通常と異なる、といった所見は、水頭症や脳形成異常、頭蓋内出血などの評価につながることがあります。
そのため、正常な側脳室が胎児期にどのような形をとり、どのように変化していくのかを知ることは、出生前診断において重要です。

本研究では、京都コレクションのヒト胎児標本から、妊娠16〜25週の外表上正常な16例を対象に、MRI画像から側脳室を三次元再構築しました。
その結果、妊娠16週の時点で、側脳室はすでに前角、中心部、後角、下角の4つの主要領域に分かれており、その後、周囲の大脳の成長に伴って、主に伸長狭小化によって形を変えることが明らかになりました。

本研究成果は、2014年7月24日に公開されました。


研究の背景

胎児期の脳発達を評価することは、出生前診断において非常に重要です。
超音波検査では、胎児の発育を評価するために、さまざまな計測値が用いられます。

たとえば、

  • 頭殿長
  • 腹部周囲長
  • 大腿骨長
  • 項部透亮像
  • 児頭大横径

などです。

このうち、児頭大横径は胎児頭部の大きさを示す代表的な指標であり、胎児脳の発達を評価する際にも重要です。

一方、脳の内部にある側脳室は、胎児脳の中でも比較的見つけやすい構造です。
特に超音波検査では、側脳室は胎児頭部の断面を決める際の重要なランドマークにもなります。

側脳室の形態異常は、脳脊髄液の産生や流れの異常、脳実質の発達異常、頭蓋内病変などを示す可能性があります。
そのため、側脳室の正常発達を理解し、正常範囲を知ることは、胎児診断の精度を高めるために欠かせません。

しかし、妊娠中期における側脳室の三次元的な形態変化や、どの計測値が胎児脳の成長をよく反映するのかについては、まだ十分に整理されていませんでした。

そこで本研究では、MRIを用いて胎児側脳室を三次元的に再構築し、形態変化と計測指標を解析しました。


研究の方法

本研究では、京都大学の京都コレクションに保存されているヒト胎児標本を用いました。
対象は、外表上明らかな異常のない妊娠16〜25週の16例です。

胎児の発育指標として、

  • 体重
  • 児頭大横径

を記録しました。
対象胎児の児頭大横径は30.2〜59.5 mm、体重は80.6〜740.0 gの範囲でした。

MRI画像データから側脳室を抽出し、三次元再構築を行いました。
側脳室は、以下の4つの領域に分けて観察しました。

  • 前角
  • 中心部
  • 後角
  • 下角

これらの領域は、周囲の大脳構造、すなわち前頭葉、脳梁、基底核、視床、後頭葉、側頭葉などの発達と密接に関係します。

さらに、側脳室の形態変化を定量的に評価するため、6つの長さ指標を測定しました。


測定した6つの指標

本研究では、側脳室の発達を表すために、以下の6つの長さを測定しました。

1. 側脳室の前後方向全長

側脳室全体が前後方向にどれくらい伸びているかを示します。
胎児脳全体の成長を反映する指標と考えられます。

2. 前方部と後方部の幅

側脳室の前方と後方の位置関係を示す指標です。
基底核や視床など、深部脳構造の発達と関係する可能性があります。

3. 後角の長さ

後角が後方へどれくらい伸びているかを示します。
後頭葉の発達を反映する可能性があります。

4. 中心部の高さ

側脳室中心部の上下方向の広がりを示します。
脳梁の発達や周囲大脳実質の厚みと関係する可能性があります。

5. 中心部から下角までの長さ

側脳室中心部から下角へ向かう経路の発達を示します。
側頭葉や基底核、視床の発達と関係する可能性があります。

6. 左右の下角間の幅

左右の下角がどの程度離れているかを示します。
側頭葉の発達や深部脳構造の変化と関係する可能性があります。

これらの計測値と児頭大横径との関係を解析しました。


主な結果

1. 妊娠16週で、側脳室は4つの主要領域に分かれていました

妊娠16週の時点で、側脳室はすでに、

  • 前角
  • 中心部
  • 後角
  • 下角

に分かれていました。

ただし、この時期の側脳室はまだ全体に幅広く、各角は短く、狭小化や扁平化はあまり目立ちませんでした。
つまり、側脳室の基本的な領域分化は妊娠16週までに成立しているものの、その後の胎児期に形が大きく洗練されていくことが分かりました。


2. 側脳室は主に「伸びること」と「狭くなること」で形を変えました

妊娠16〜25週の間に、側脳室は大きく形を変えました。

その変化は、単純に全体が大きくふくらむというよりも、

  • 前後方向に伸びる
  • 後角が後方へ伸びる
  • 下角が尾側・前方・外側へ伸びる
  • 中心部や各部位が狭く、扁平になる

という形で進みました。

これは、側脳室そのものが独立して成長しているというより、周囲の大脳、特に大脳半球の外側・内側の成長に伴って、内部空間である側脳室の形が変化していることを示しています。


3. 後角は後方へ伸び続けました

側脳室の後角は、妊娠週数が進むにつれて後方へ伸長しました。
これは、周囲の後頭葉の発達と関係していると考えられます。

ただし、観察期間中、後角は比較的幅広い形を保っており、明らかな狭小化はまだ十分には進んでいませんでした。
後角の狭小化は、前角や下角、中心部よりもやや遅れて進む可能性があります。


4. 下角は複雑な方向へ伸びました

側脳室の下角は、発生に伴って特に複雑な形態変化を示しました。

側面から見ると、下角はまず尾側へ伸び、その後、前方へ伸びるような形を示しました。
正面から見ると、外側方向への広がりも観察されました。
さらに、観察期間中には、下角先端が内側方向へ向かうような変化も見られました。

下角は側頭葉の発達と密接に関係する構造です。
このような複雑な伸長方向は、側頭葉や周囲の深部脳構造の発達を反映していると考えられます。


5. 側脳室の長さ指標は、児頭大横径とよく相関しました

本研究で測定した6つの長さ指標はいずれも、児頭大横径と相関しました。

特に、

  • 側脳室の前後方向全長
  • 後角の長さ
  • 前方部と後方部の幅
  • 中心部の高さ
  • 左右下角間の幅

は、児頭大横径と比較的よい関係を示しました。

中でも、後角の長さは児頭大横径との相関が非常に高く、後頭葉の発達を反映する有用な指標となる可能性があります。

この結果は、側脳室の「体積」よりも、特定の長さ計測のほうが、胎児脳の成長を評価するうえで実用的である可能性を示しています。


6. 側脳室体積は、児頭大横径とは明らかな相関を示しませんでした

一方で、側脳室全体の体積は、児頭大横径と明らかな相関を示しませんでした。

これは重要な所見です。
胎児期の側脳室は、単純に大きくなるだけではありません。
伸びる、狭くなる、平たくなる、方向を変えるといった複雑な形態変化を伴います。

そのため、側脳室の体積は、脳の成長をそのまま反映するとは限りません。
むしろ、体積は一時的に増えたり減ったりする可能性があり、胎児脳の発達指標としては解釈が難しい場合があります。

また、側脳室は表面積に対して体積が小さい複雑な構造であり、第三脳室との境界も胎児期には広く不明瞭なことがあります。
このため、体積測定は技術的にも誤差が生じやすいと考えられます。


7. 長さ計測は、出生前診断に応用しやすい可能性があります

側脳室体積の測定には三次元画像処理が必要であり、臨床現場で日常的に行うには手間がかかります。
一方、長さの計測は、超音波検査でも比較的行いやすく、標準化しやすいという利点があります。

本研究で示した側脳室の長さ指標は、胎児脳の発達を評価するための簡便な指標として、将来的に出生前診断に役立つ可能性があります。

特に、側脳室の形態が周囲の大脳発達を反映することを考えると、側脳室計測は単に「脳室が広いか狭いか」を見るだけでなく、大脳の領域別発達を推定する手がかりになると考えられます。


この研究の意義

本研究は、妊娠16〜25週のヒト胎児側脳室をMRIで三次元再構築し、その形態変化と計測指標を解析した研究です。

今回の成果から、

  • 妊娠16週には、側脳室は前角・中心部・後角・下角に分化していること
  • 側脳室は胎児期中期に、主に伸長と狭小化によって形を変えること
  • 側脳室の形態変化は、周囲の大脳発達を反映していること
  • 後角は後方へ、下角は尾側・前方・外側・内側方向へ複雑に伸びること
  • 側脳室の複数の長さ指標は、児頭大横径と相関すること
  • 側脳室体積は児頭大横径と明らかな相関を示さないこと
  • 長さ計測は、胎児脳発達の評価に有用な可能性があること

が明らかになりました。

これらの知見は、正常な胎児脳発達を理解するための基礎資料です。
また、脳室拡大、水頭症、脳形成異常、頭蓋内出血、胎児脳発達遅延などを評価する際の基準づくりにもつながる可能性があります。


従来の研究との違い

これまで、胎児側脳室の評価では、側脳室幅や脳室拡大の有無に注目することが多くありました。
しかし、側脳室は単なる袋状の空間ではなく、前角、中心部、後角、下角からなる複雑な三次元構造です。

本研究では、MRI画像を用いて側脳室全体を三次元再構築し、胎児期中期における形態変化を立体的に示しました。

さらに、体積だけでなく、複数の長さ指標を設定し、それぞれが児頭大横径とどのように関係するかを解析しました。
その結果、側脳室体積よりも、長さ指標のほうが胎児脳発達を評価するうえで有用である可能性が示されました。

この点が、本研究の大きな特徴です。


出生前診断へのつながり

近年、胎児超音波検査や胎児MRIの進歩により、胎児脳の形態をより詳しく観察できるようになってきました。
しかし、臨床で広く使うためには、特殊な装置や複雑な解析を必要としない、再現性の高い計測指標が重要です。

本研究で示した側脳室の長さ計測は、

  • 胎児脳の成長評価
  • 側脳室形態の正常範囲の設定
  • 脳室拡大の早期評価
  • 大脳各領域の発達推定
  • 胎児発育評価プロトコルの標準化

に役立つ可能性があります。

特に、側脳室の形が大脳の成長に応じて変化することを理解しておくことは、胎児画像を正しく読むために重要です。


今後の展望

今後は、胎児側脳室発達をさらに詳しく理解するために、

  • より多くの胎児例を用いた正常範囲の設定
  • 妊娠初期から後期までの連続的解析
  • 生体胎児MRI・超音波画像との比較
  • 側脳室幅や後角長などの臨床指標との対応
  • 大脳皮質、脳梁、基底核、視床、側頭葉発達との関係解析
  • 脳室拡大や水頭症症例との比較
  • 三次元画像を用いた自動計測法の開発

を進める必要があります。

われわれの研究室では今後も、ヒト胚・胎児の三次元画像解析を通じて、脳がどのように成長し、内部構造を整えていくのかを明らかにしていきます。


論文情報

論文タイトル
Morphological features and length measurements of fetal lateral ventricles at 16–25 weeks of gestation by magnetic resonance imaging

著者
Kaori Taketani, Shigehito Yamada, Chigako Uwabe, Tomohisa Okada, Kaori Togashi, Tetsuya Takakuwa

公開日
2014年7月24日

DOI
https://doi.org/10.1111/cga.12076


ひとこと

側脳室は、胎児の脳の中にある小さな空間ですが、脳全体の発達を映し出す大切な目印です。
妊娠16週ごろにはすでに前角、中心部、後角、下角に分かれ、その後、大脳の成長に合わせて伸びたり、狭くなったりしながら形を変えていきます。

今回の研究では、側脳室の体積よりも、各部分の長さの変化が胎児脳の成長をよく反映する可能性が示されました。
これは、胎児診断で使いやすい指標を考えるうえで重要な知見です。

側脳室の形を丁寧に見ることは、単に脳室の大きさを測るだけでなく、胎児の大脳がどのように発達しているかを理解する手がかりになります。
正常な発達の姿を三次元的に知ることが、将来のより正確な出生前診断につながると考えています。