肝臓はどのように大きくなり、周囲の臓器と形をつくるのか-妊娠16〜26週のヒト胎児肝臓-
1 min read

肝臓はどのように大きくなり、周囲の臓器と形をつくるのか-妊娠16〜26週のヒト胎児肝臓-

濱部さんは卒業研究で、ヒト胎児期における肝臓の成長と形態形成を、MRI画像を用いて三次元的に解析しました。

肝臓は、胎児の腹腔内で非常に大きな割合を占める臓器です。
成人では代謝や胆汁産生、解毒などに関わる重要な臓器ですが、胎児期にはそれに加えて、造血にも大きく関わります。
そのため、胎児肝臓の大きさや形を評価することは、胎児の発育や全身状態を理解するうえで重要です。

本研究では、京都コレクションおよび胎児MRIデータを用いて、妊娠16〜26週のヒト胎児21例と、比較対象としてCarnegie stage 23のヒト胚8例を解析しました。
MRI画像から肝臓と周囲臓器を三次元再構築し、肝臓の長さ、体積、各葉の体積、腹部内での位置関係を定量的に調べました。

その結果、胎児肝臓は体重の増加に伴って安定した形態を保ちながら成長し、とくに左右方向および背腹方向への成長が目立つことが分かりました。
また、胎児肝臓の形は、胃、十二指腸、脾臓、右副腎、右腎、腸管、大血管など、周囲の臓器によって影響を受けながら形成されることが明らかになりました。

本研究成果は、2012年10月18日に公開されました。


研究の背景

肝臓は、胎児期の腹腔内で大きな体積を占める臓器です。
発生の初期から急速に成長し、胎児期には重要な造血臓器としても働きます。

肝臓は胎児の体内で、

  • 造血
  • アルブミンなどのタンパク質産生
  • 胆汁産生
  • グリコーゲン代謝
  • 胎児特異的タンパク質の産生
  • 胎盤との内分泌・代謝的な連携

など、多くの役割を担います。

そのため、胎児肝臓の発育を評価することは、単に肝臓そのものを見るだけでなく、胎児全体の発育や栄養状態、胎児の健康状態を知るうえでも重要です。

従来、胎児肝臓の評価には、

  • 肝臓の長さ
  • 肝臓の体積

などが用いられてきました。
しかし、肝臓は単純な球や楕円体ではなく、周囲の臓器や血管と接しながら複雑な形をしています。
そのため、二次元的な長さや体積だけでは、肝臓の形態形成を十分に理解することは困難でした。

近年、MRIや超音波画像技術の進歩により、胎児臓器を三次元的に観察できるようになってきました。
そこで本研究では、胎児肝臓を三次元再構築し、肝臓そのものの成長だけでなく、周囲臓器との関係も含めて解析しました。


研究の方法

本研究では、以下の標本・画像データを解析しました。

  • 妊娠16〜26週のヒト胎児21例
  • Carnegie stage 23のヒト胚8例

胎児例はいずれも外表上明らかな異常を認めない標本です。
胎児の体重は80.6〜790.0 gの範囲でした。

MRI画像を用いて、肝臓と周囲臓器を抽出し、三次元再構築を行いました。
解析には、OsiriXやDeltaViewerなどの画像解析ソフトウェアを用いました。


解析した主な項目

本研究では、肝臓の成長を立体的に評価するために、三次元座標軸を設定しました。

  • 左右方向
  • 背腹方向
  • 頭尾方向

それぞれの方向について、肝臓の長さを測定しました。

また、以下の項目も測定しました。

  • 肝臓全体の体積
  • 右葉の体積
  • 左葉の体積
  • 方形葉の体積
  • 尾状葉の体積
  • 胎児全体の体積
  • 腹部断面積
  • 肝臓断面積
  • 頭殿長
  • 体幹高

さらに、肝臓と周囲臓器の関係を三次元的に観察しました。

観察した主な周囲構造は、

  • 十二指腸
  • 脾臓
  • 膵臓
  • 右副腎
  • 右腎
  • 小腸・大腸
  • 下大静脈
  • 門脈
  • 臍静脈
  • 胆嚢・胆管
  • 横隔膜
  • 心臓・肺

です。


主な結果

1. 胎児肝臓は、体重の増加に伴って安定して成長しました

妊娠16〜26週の胎児では、体重の増加に伴って肝臓も大きくなりました。
肝臓の体積は胎児体重とよく相関し、胎児発育を反映する指標となることが示されました。

本研究で測定した肝臓体積は、

  • 80.6 gの胎児:約2.98 cm³
  • 790.0 gの胎児:約39.65 cm³

でした。

つまり、観察した期間内で、肝臓体積は約13倍に増加していました。

一方で、肝臓の外形は発生段階が進んでも大きく乱れることなく、比較的安定した形態を保っていました。
これは、胚期末までに肝臓内の主要な血管系や周囲臓器との基本的な位置関係がかなり整っているためと考えられます。


2. 肝臓は左右方向に特によく成長しました

肝臓の長さを三方向で測定したところ、いずれも胎児体重と相関しました。

特に成長の傾向としては、

  1. 左右方向
  2. 背腹方向
  3. 頭尾方向

の順に伸びが大きいことが分かりました。

つまり、胎児肝臓は、発生中期には上下方向へ伸びるというよりも、左右に広がり、さらに前後方向にも厚みを増しながら成長していくと考えられます。

また、肝臓の頭尾方向の長さと、胎児の体幹高や頭殿長との比率は、体重が増えてもほぼ一定でした。
これは、肝臓が胎児体幹の成長とバランスをとりながら発達していることを示しています。


3. 肝臓は腹部断面の約半分を占めていました

臍部を含む冠状断面で、腹部全体の断面積と肝臓の断面積を測定しました。
その結果、肝臓断面積は腹部断面積とよく相関しました。

肝臓断面積が腹部断面積に占める割合は、平均して約**55%**でした。
この割合は、胎児体重にかかわらず比較的一定でした。

つまり、妊娠中期の胎児では、肝臓が腹部の大きな部分を占め続けていることが分かります。
これは、胎児期の肝臓が造血を含む重要な機能を担う大きな臓器であることを反映しています。


4. 胎児肝臓では4つの葉が明瞭に認識されました

胎児肝臓では、

  • 右葉
  • 左葉
  • 方形葉
  • 尾状葉

の4つの葉を明瞭に区別することができました。

それぞれの葉の体積も胎児体重と相関しました。
また、肝臓全体に占める各葉の割合は、胎児体重が増えてもほぼ一定でした。

平均的な割合は、

  • 右葉:約42.4%
  • 左葉:約32.4%
  • 方形葉:約17.3%
  • 尾状葉:約8.0%

でした。

このことから、胎児期中期には肝臓の葉構造がすでに安定しており、各葉がほぼ一定の比率を保ちながら成長していることが示されました。


周囲臓器との関係

5. 肝臓の頭側面は、横隔膜によって胸部臓器から分けられていました

胎児肝臓の頭側面は、横隔膜に接していました。
妊娠16〜19週ごろの胎児では、肝臓の頭側面はなめらかなドーム状でした。
一方、妊娠20週以降では、やや平坦な形になる傾向がありました。

心臓や肺などの胸部臓器は、発達した横隔膜によって肝臓と明瞭に分けられていました。
そのため、胎児期中期の肝臓形態は、胸部臓器から直接強い影響を受けるというより、横隔膜を介して腹腔内で安定した位置を保っていると考えられます。

このことは、横隔膜形成の異常がある場合には、肝臓の頭側面や位置に変化が現れる可能性を示しています。


6. 背側・尾側面は、胃や十二指腸、脾臓などの影響を受けていました

肝臓の背側面や尾側面は、周囲の腹部臓器と接しており、それらの形に応じてへこみや溝が形成されていました。

特に、以下のような関係が観察されました。

  • 脾臓は、肝臓の左背側面にくぼみをつくる
  • は、尾状葉の左側に接して滑らかな面を形成する
  • 十二指腸は、尾状葉周辺に鋭い縁をつくる
  • 小腸・大腸は、肝臓の尾側背側面に広く浅いへこみをつくる

このように、胎児肝臓の形は肝臓自身の成長だけでなく、周囲の消化器の位置や発達によっても形づくられていました。


7. 右副腎と右腎も肝臓表面の形に影響していました

胎児期には、副腎が非常によく発達します。
本研究では、右副腎が肝臓の右背側面に明瞭なくぼみをつくっていました。

また、右腎も肝臓の右側背側面に接し、比較的なだらかなへこみを形成していました。

つまり、肝臓の背側形態は、消化器だけでなく、後腹膜臓器である副腎や腎臓の発達にも影響を受けることが分かりました。


8. 大血管は肝臓表面に溝をつくっていました

肝臓は血管に富む臓器であり、胎児期には臍静脈を通じて胎盤からの血液も受け取ります。
本研究では、主要血管が肝臓表面の形に明瞭な影響を与えていることが分かりました。

特に、

  • 下大静脈
  • 門脈
  • 臍静脈

は、肝臓表面に溝を形成していました。

また、臍部へ向かう臍静脈の走行に対応して、肝臓の腹側尾側縁には特徴的なアーチ状の形態が認められました。

このように、胎児肝臓の形は、周囲臓器だけでなく、肝臓内外を走る血管構築とも密接に関係しています。


胚期肝臓との比較

9. 妊娠16週の胎児肝臓は、CS23胚の肝臓より40倍以上大きくなっていました

本研究では、妊娠16週胎児の肝臓と、CS23胚の肝臓を比較しました。

CS23胚は妊娠9〜10週ごろに相当します。
この時期の胚肝臓の体積は平均約0.08 cm³でした。
一方、妊娠16週胎児の肝臓体積は平均約3.19 cm³で、約41倍に増加していました。

この短い期間に、肝臓は非常に大きく成長していることが分かります。

ただし、全身に占める肝臓の割合は、胚期から胎児期にかけてむしろやや低下していました。
これは、肝臓が大きく成長する一方で、胎児全体も急速に成長していることを示しています。


10. 胎児肝臓では、胚期より背腹方向への成長が目立ちました

CS23胚と妊娠16週胎児を比較すると、肝臓の三方向の成長には違いがありました。

妊娠16週までの間に、肝臓は特に背腹方向へ大きく成長していました。
この結果、胎児肝臓は胚期肝臓に比べて、より厚みをもった立体的な形へと変化していました。

また、胎児では肝臓の左右方向・背腹方向の広がりが、頭尾方向に比べて相対的に大きくなっていました。


11. 胚期肝臓では、4つの葉は外観上まだ明瞭ではありませんでした

妊娠16週の胎児肝臓では、右葉、左葉、方形葉、尾状葉が明瞭に認識されました。
一方、CS23胚の肝臓では、これらの葉構造は外観上はまだ明瞭ではありませんでした。

つまり、肝臓の基本構造は胚期に形成され始めていますが、外から見てはっきりとした葉構造として認識されるのは、胎児期に入ってからであると考えられます。

特に、尾状葉や方形葉の形態が明瞭になることは、胎児肝臓が胚期肝臓と異なる重要な特徴でした。


12. 胚期肝臓と胎児肝臓では、周囲臓器から受ける影響も異なっていました

CS23胚の肝臓では、胃や幽門前庭部、右副腎などの影響によるくぼみがすでに見られました。
しかし、妊娠16週以降の胎児肝臓では、さらに多くの周囲臓器が肝臓形態に影響していました。

胎児期には、

  • 脾臓
  • 右腎
  • 腸管
  • 胆嚢・胆管
  • 門脈
  • 臍静脈
  • 下大静脈

などが、肝臓表面の溝やへこみの形成に関わっていました。

つまり、胎児肝臓の形は、胚期に形成された基本的な臓器配置をもとにしながら、周囲臓器の成長によってさらに細かく整えられていくことが分かりました。


この研究の意義

本研究は、妊娠16〜26週のヒト胎児肝臓をMRIで三次元再構築し、その形態と成長を定量的に解析した研究です。
さらに、CS23胚の肝臓と比較することで、胚期から胎児期にかけての肝臓形態の変化を明らかにしました。

今回の成果から、

  • 胎児肝臓の体積は胎児体重とよく相関すること
  • 肝臓は左右方向、背腹方向、頭尾方向の順に成長傾向が異なること
  • 胎児肝臓は腹部断面の約半分を占めること
  • 胎児肝臓では右葉、左葉、方形葉、尾状葉が明瞭に認識されること
  • 各葉の体積比は胎児体重にかかわらず比較的一定であること
  • 胎児肝臓の形は、胃、十二指腸、脾臓、副腎、腎臓、腸管などに影響されること
  • 下大静脈、門脈、臍静脈などの血管が肝臓表面の溝を形成すること
  • 妊娠16週胎児の肝臓はCS23胚の肝臓より約40倍以上大きいこと
  • 胎児肝臓は胚期肝臓と異なり、葉構造が明瞭になること

が明らかになりました。

これらの知見は、正常な胎児肝臓発達を理解するための基礎資料となります。
また、肝臓の形態異常、横隔膜異常、腹部臓器位置異常、胎児発育不全、胎児貧血、肝腫大などを評価する際の基準づくりにもつながる可能性があります。


従来の研究との違い

これまで、胎児肝臓の評価では、主に肝臓の長さや体積が用いられてきました。
しかし、肝臓は周囲の臓器と密接に接しながら成長するため、その形態は単純な大きさだけでは説明できません。

本研究では、MRI画像を用いて肝臓と周囲臓器を三次元再構築し、

  • 肝臓の三方向の長さ
  • 肝臓全体の体積
  • 各肝葉の体積
  • 腹部内に占める肝臓の割合
  • 周囲臓器による肝表面のくぼみ
  • 大血管による溝
  • 胚期肝臓との違い

を総合的に解析しました。

特に、肝臓そのものだけでなく、隣接臓器との関係を三次元的に示した点が、本研究の大きな特徴です。


出生前診断へのつながり

胎児肝臓の大きさや形は、胎児の発育や全身状態を反映する重要な情報です。
また、肝臓は胎児超音波や胎児MRIでも比較的観察しやすい臓器です。

本研究で示した正常な肝臓形態と成長のデータは、

  • 胎児肝臓発育の評価
  • 肝腫大・肝低形成の判断
  • 胎児発育不全の評価
  • 胎児貧血や造血異常の評価
  • 横隔膜ヘルニアなどに伴う肝臓位置異常の評価
  • 腹部臓器の位置異常の診断
  • 胆道系や門脈系の異常評価

に役立つ可能性があります。

特に、肝臓表面の形が周囲臓器の発達や位置を反映していることは重要です。
肝臓のへこみや溝を丁寧に観察することで、肝臓だけでなく、胃、腸管、副腎、腎臓、横隔膜などの発達異常を推定できる可能性があります。


今後の展望

今後は、胎児肝臓発達をさらに詳しく理解するために、

  • 妊娠11〜15週の移行期における肝臓形態解析
  • 妊娠後期まで含めた連続的な成長曲線の作成
  • 胎児MRIと超音波画像の比較
  • 肝臓体積・肝葉体積の正常範囲の設定
  • 肝臓表面のへこみや溝の定量化
  • 横隔膜ヘルニア症例との比較
  • 胎児発育不全や胎児貧血症例との比較
  • 胆道系・門脈系異常との関連解析
  • 自動セグメンテーションによる臨床応用

を進める必要があります。

われわれの研究室では今後も、ヒト胚・胎児の三次元画像解析を通じて、臓器がどのように成長し、周囲の臓器とともに形を整えていくのかを明らかにしていきます。


論文情報

論文タイトル
Morphology and morphometry of fetal liver at 16–26 weeks of gestation by magnetic resonance imaging: Comparison with embryonic liver at Carnegie stage 23

著者
Yui Hamabe, Ayumi Hirose, Shigehito Yamada, Chigako Uwabe, Tomohisa Okada, Kaori Togashi, Katsumi Kose, Tetsuya Takakuwa

公開日
2012年10月18日

DOI
https://doi.org/10.1111/hepr.12000


ひとこと

胎児の肝臓は、腹部の中でとても大きな存在感をもつ臓器です。
今回の研究では、その肝臓が胎児の成長に合わせて安定した形を保ちながら大きくなり、周囲の臓器や血管に押され、支えられ、形づくられていく様子を三次元的に示しました。

肝臓は単独で形をつくるのではありません。
胃や十二指腸、脾臓、副腎、腎臓、腸管、そして臍静脈や門脈などの血管との関係の中で、表面にくぼみや溝をつくりながら発達していきます。

胎児肝臓の正常な形を知ることは、肝臓そのものの発育評価だけでなく、腹部全体の臓器配置や横隔膜、血管系の異常を理解するためにも重要です。
小さな胎児の腹部の中で、肝臓と周囲臓器が互いに影響し合いながら形を整えていく過程を知ることは、より正確な出生前診断につながる大切な基盤になると考えています。