ヒト胚の「体の向き」の多様性を明らかにしました
藤井助教らが、ヒト胚の発生初期にみられる体軸の向きについて大規模に調べ、ヒトではマウスのように一方向へ決まった体軸パターンがあるわけではなく、さまざまな向きが存在することを明らかにしました。
本研究成果は、2025年9月5日に Birth Defects Research 誌に掲載されました。
どんな研究か

発生初期の胚は、頭から尾にかけて少しねじれたような形をとることがあります。
マウスでは、この体の軸が通常右巻きになることが知られており、左右軸形成との関連も議論されています。
一方で、ヒト胚では、こうした体の向きに決まったパターンがあるのかどうかが、これまでよく分かっていませんでした。
そこで今回、われわれは京都大学の京都コレクションに収蔵されたヒト胚標本のMRIデータを用いて、発生初期の体軸を系統的に評価しました。
対象としたのは、Carnegie Stage(CS)13〜17の545例です。
頭部と尾部の位置関係から、体軸を
- 右巻き(RH)
- 左巻き(LH)
- 中間型(M)
に分類して解析しました。
わかったこと
解析の結果、ヒト胚の体軸にはかなり幅広いバリエーションがあることが分かりました。
発生段階ごとにみると、
- CS13では右巻きがやや多い
- CS14では右巻きと左巻きがほぼ同じくらい
- CS15以降では左巻きが多くなる
- 発生が進むにつれて、中間型(よりまっすぐな体軸)が増えていく
- CS17では約70%が中間型
という傾向が見られました。
つまり、ヒトでは「これが標準的な向き」と言い切れるほど単純ではなく、発生の途中では自然な多様性があることが示されました。
内臓の左右性との関係も調べました
さらに、心臓、胃、肝臓、腸など、左右差をもつ内臓についても一部の標本で詳しく調べました。
その結果、体軸が右巻きでも左巻きでも中間型でも、内臓の左右配置はおおむね共通していました。
このことから、外から見た体の向きと、内臓の左右性とは、必ずしもそのまま対応しない可能性があると考えられます。
この研究の意味
マウスは発生学研究で非常によく使われるモデル動物ですが、今回の結果は、マウスで知られている形態パターンをそのままヒトに当てはめることはできないことを示しています。
また、ヒト胚の体軸については、これまで写真やスケッチで個別に示されることはあっても、500例を超える標本を用いて系統的に調べた研究はほとんどありませんでした。
今回の研究は、ヒト初期発生における体の形づくりに予想以上の多様性があることを、大規模データから示した点に意義があります。
今後、こうした知見は、ヒトの左右軸形成や先天異常の理解につながる基礎資料になると期待されます。
論文情報
Title
Helical Body Axis Orientations in Human Embryonic Development
Authors
Sena Fujii, Shigehito Yamada, Tetsuya Takakuwa
Journal
Birth Defects Research
First published
2025年9月5日
DOI
https://doi.org/10.1002/bdr2.2527
ひとこと
ヒトの発生は、教科書的に一様に進むだけではなく、初期の段階からかなり豊かな形態の多様性を含んでいます。
今回の研究は、その一端を「体軸の向き」という視点から示したものです。
今後も、ヒト発生の実像により近づけるよう、形態学的研究を進めていきます。

