寄生虫標本をデジタル化し、教育と研究に活用

私たちの研究室の金橋助教は、寄生虫学教育と研究のための予備的デジタル標本データベースを構築し、その成果を発表しました。
近年、寄生虫感染症の診断では、遺伝子検査や抗原検査など、形態観察に依存しない手法が大きく進歩しています。それでもなお、**顕微鏡で虫体や虫卵の形を見て診断する「形態学的診断」**は、現在も寄生虫診断の基本であり、医療系教育において重要な位置を占めています。ところが、日本を含む衛生環境の整った国々では寄生虫感染の頻度が低く、教育用標本を新たに確保することが難しいという課題があります。加えて、既存のガラス標本は繰り返し使用されることで劣化しやすく、保存や共有にも限界がありました。
そこで本研究では、京都大学および京都府立医科大学が所蔵する50点の寄生虫・節足動物スライド標本をデジタル化し、バーチャルスライドとして閲覧できるデータベースを作成しました。対象には、虫卵、成虫、ダニ、ノミ、昆虫類、マラリア原虫などが含まれ、低倍率で観察する標本から高倍率観察が必要な標本まで、幅広い資料を取り扱いました。
デジタル化には、ホールスライドイメージング(WSI)技術を用いました。厚みのある標本にはZ-stack機能を使って複数の焦点面を取り込み、できるだけ見やすいバーチャルスライドを作成しました。完成したデータは共有サーバー上に整理され、分類群ごとのフォルダ構成で閲覧できるようになっています。さらに、それぞれの標本には日本語と英語の簡単な解説を付し、教育現場や自主学習、研究利用をしやすくしました。
このシステムでは、約100人が同時にアクセス可能で、専用ソフトがなくても、ウェブブラウザを通じてパソコン、タブレット、スマートフォンなどから閲覧できます。アクセスにはIDとパスワードが必要で、教育・研究目的での利用を前提に、ホスト機関を通じて提供されます。
この研究のポイント
- 寄生虫・節足動物のスライド標本50点をデジタル化し、バーチャルスライド化しました。
- 日本語・英語の解説付きデータベースとして整理し、教育・研究利用しやすい形にしました。
- 標本の劣化を防ぎつつ、遠隔地を含めて多人数で同時利用できる環境を整えました。
今回のデータベース構築は、寄生虫の形態学教育を支える基盤づくりとして大きな意味を持ちます。形態診断の重要性は今後も変わりませんが、実物標本を十分に確保し続けることは容易ではありません。だからこそ、実物標本の価値を保ちながら、デジタル技術で広く共有する仕組みが重要になります。
また、このデータベースは教育だけでなく、寄生虫形態の研究資源としても活用が期待されます。今後さらに標本数や解説情報を増やしていくことで、国内外の寄生虫学教育・研究を支えるより充実した基盤へと発展していくことが見込まれます。
本研究成果は、2025年に Scientific Reports 誌に掲載されました。
論文情報
タイトル
Construction of a preliminary digital parasite specimen database for parasitology education and research
著者
Toru Kanahashi, Minoru Yamada, Kentaro Ibuki, Tetsuya Takakuwa
掲載誌
Scientific Reports
Volume 15, Article number: 20711
公開年
2025年
DOI / 論文URL
https://doi.org/10.1038/s41598-025-05619-9
ひとこと紹介
寄生虫の「かたち」を学ぶことは、今も寄生虫診断の基礎です。本研究では、貴重な寄生虫標本をデジタル化し、日本語・英語の解説付きデータベースとして整理することで、教育と研究の両方に役立つ新しい学習基盤を構築しました。

