ヒト僧帽筋は胎児初期にどのように形づくられるのか-拡散テンソル画像で明らかになった筋線維の走行と三つの区分

修士2年岩佐さんは、ヒトの僧帽筋が胚子後期から胎児初期にかけてどのように発生するのかを詳しく解析し、その成果を発表しました。
僧帽筋は、首の後ろから背中の上部に広がる大きな筋で、肩甲帯の運動や頸部の動きに重要な役割をもっています。大人では、上部・中部・下部の三つの部分に分けて理解されることが多く、それぞれ肩甲骨や鎖骨への付着部が異なります。しかし、ヒト胎児の初期に僧帽筋がどのように現れ、筋線維の向きや各部分の特徴がどの段階で形づくられるのかは、これまで十分には分かっていませんでした。
そこで本研究では、Carnegie stage 18〜23のヒト胚子12例と、頭殿長(CRL)33.5〜87.5 mmのヒト胎児16例を対象に、7テスラMRIによるT1強調画像と拡散テンソル画像(DTI)を用いて、僧帽筋を三次元的に解析しました。あわせて、関連する胸鎖乳突筋、頭板状筋、肩甲骨、鎖骨、椎骨も再構築し、僧帽筋の起始・停止と筋線維走行との関係を詳しく調べました。
その結果、僧帽筋はCarnegie stage 20で初めて確認され、その後、肩甲骨・鎖骨・椎骨の発達に伴って位置関係を変えながら成長していくことが分かりました。DTIによる解析では、各椎骨レベルから起こる筋線維の走行が可視化され、僧帽筋が停止部の違いに基づいて上部・中部・下部の三つに区分できること、そしてその線維配向パターンは胎児初期を通じて比較的一定であることが示されました。
特に、上部は鎖骨外側部へ、中部は肩峰および肩甲棘上内側部へ、下部は肩甲棘内側端へ向かうことが確認されました。三つの区分の境界は、上部と中部の境界がおもに第6〜第7頸椎レベル、中部と下部の境界がおもに第1〜第2胸椎レベルに位置していました。

また、各椎骨レベルごとの体積分布を調べると、上部ではC1からC7に向かって体積が増加し、中部ではC6〜C7付近で局所的な最大を示したあと減少しました。これは、僧帽筋の各部分が将来果たす役割の違いを反映している可能性があります。さらに、上部では、起始部が後頭部から頸椎へ移るにつれて、筋線維の向きが三次元的に連続して変化することも明らかになりました。
この研究のポイント
- ヒト僧帽筋はCS20で初めて確認されました。
- DTIにより、僧帽筋の筋線維走行を三次元的に可視化し、上部・中部・下部の三分構造を示しました。
- 筋線維の向きや各部の分布は、胎児初期の段階ですでに比較的一定であることが分かりました。
今回の研究の大きな特徴は、僧帽筋を単なる外形ではなく、内部の筋線維構築(muscle architecture)まで含めて三次元的に捉えた点です。僧帽筋のように、広い起始部から限られた停止部へ筋線維が集まる収束型筋では、線維の長さや向き、体積分布が、将来の力の発揮の仕方や運動機能に深く関わります。本研究は、こうした構築が胎児初期の段階でどのように整っていくかを示した重要な基礎データとなります。
また、肩甲骨や鎖骨の成長に伴って、僧帽筋の位置や線維方向が変化していくことも示されました。特に肩甲棘はこの時期まだ未熟で、僧帽筋中部・下部の線維は、成長途中の肩甲骨の形に沿って走っていました。こうした知見は、筋と骨格が互いに関係しながら形づくられていく発生の仕組みを理解するうえで重要です。
今後は、今回明らかになった僧帽筋の発生過程を、他の頸部・肩甲帯筋と比較したり、神経支配や腱形成とあわせて解析したりすることで、より包括的な筋骨格発生の理解につながることが期待されます。
本研究成果は、2024年7月29日に Journal of Anatomy 誌にオンライン掲載されました。
論文情報
タイトル
Human trapezius muscle development during the early fetal period
著者
Yui Iwasa, Toru Kanahashi, Hirohiko Imai, Hiroki Otani, Shigehito Yamada, Tetsuya Takakuwa
掲載誌
Journal of Anatomy
公開日
2024年7月29日
DOI
https://doi.org/10.1111/joa.14116
ひとこと紹介
首から肩、背中に広がる僧帽筋は、胎児初期の段階ですでに上部・中部・下部の特徴を備えはじめています。本研究では、高解像度MRIとDTIを用いて、僧帽筋の筋線維走行と三次元構築を可視化し、その発生過程を詳しく明らかにしました。

