胎児の酸素豊富な血液の心臓までの「道」-臍静脈・静脈管・下大静脈の形態形成-
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胎児の酸素豊富な血液の心臓までの「道」-臍静脈・静脈管・下大静脈の形態形成-

磯谷さんは、胎児期に胎盤から心臓へ酸素豊富な血液を運ぶ静脈ルートに注目し、その形態変化と部位ごとの特徴を、胚子期から胎児初期にかけて詳しく解析しました。

胎児では、胎盤から送られてくる酸素豊富な血液は、臍静脈(umbilical vein: UV)門脈洞(portal sinus: PS)静脈管(ductus venosus: DV)、**下大静脈(inferior vena cava: IVC)**を通って心臓へ向かいます。このルートは、胎児循環の中でも特に重要な経路であり、出生前診断でも血流評価の対象となります。しかし、この静脈ルートは一本の単純な管ではなく、部位によって発生の仕方や壁の性質、太さ、形が異なることが知られています。にもかかわらず、ヒト胚子・胎児の初期における全体像は十分に明らかではありませんでした。

そこで本研究では、Carnegie stage 15〜23のヒト胚子18例と、頭殿長(CRL)33〜97 mmのヒト胎児11例を用いて、位相コントラストX線CT(PCX-CT)および7テスラMRIによる高解像度画像を取得し、臍輪から心臓入口部までの静脈ルートを三次元的に再構築しました。さらに、別のヒト胚子18例の連続組織切片を用いて、各部位の血管壁の形成状態も詳しく調べました。

その結果、CS15の時点では、静脈ルート全体が大きくS字状に曲がった未熟な形態を示し、途中に局所的な狭窄や拡張が見られることが分かりました。発生が進むと、血管内腔の形は不均一な楕円形から、より円形で均一な形へと変化していきました。とくにCS20ごろから部位ごとの違いがはっきりし始め、静脈管の壁は全体として薄いままである一方、静脈管入口部では局所的な壁肥厚が初めて認められました。

また、臍静脈は一様ではなく、肝外部、肝内の胎盤側、肝内の心臓側で異なる特徴を示しました。発生初期には肝外部が相対的に長い割合を占めていましたが、その後いったん短くなり、胎児初期になると再び肝外臍静脈の長さ比が増加しました。これは、肝臓と臍輪の相対的位置関係の変化が、血管の走行に大きく影響していることを示しています。

さらに、胎児初期になると、静脈ルートには臍輪通過部肝臓入口部の2か所で大きな屈曲が見られるようになりました。これは、肝臓の成長や腹壁との位置関係の変化にともなって、血管の走行が再編成されていくことを反映しています。一方で、生理的臍帯ヘルニアの有無そのものは、静脈ルートの太さには大きな影響を与えないことも分かりました。

断面積の比較では、発生初期にはUV、DV、IVCの差は比較的小さいものの、胎児初期になるにつれてDVの最狭窄部と他の静脈との断面積差がより明瞭になりました。とくに、DVの最も狭い部分は発生を通じて小さいまま保たれ、一方で臍静脈、横行洞、肝静脈、下大静脈は成長とともに大きくなっていきました。これは、胎児循環の中でDVが血流分配に特有の役割を担っている可能性を示しています。

この研究のポイント

  • 胎盤から心臓へ向かう静脈ルートを、胚子期から胎児初期まで三次元的に再構築しました。
  • 臍静脈・静脈管・下大静脈は、部位ごとに壁の発達や太さ、形が異なることを示しました。
  • 静脈管の最狭窄部は小さいまま保たれ、周囲の静脈との違いが発生に伴って明瞭になることが分かりました。

今回の研究は、胎児循環の重要な経路である臍静脈−静脈管−下大静脈ルートについて、形態、走行、内腔の大きさ、血管壁の発達を部位ごとに総合的に示した点に大きな意義があります。特に、静脈管が全体としては壁の薄い血管でありながら、入口部に局所的な壁肥厚を示すこと、また最狭窄部が長く小さいまま維持されることは、胎児期の血流制御や出生前診断の理解にとって重要な知見です。

また、血管そのものだけでなく、肝臓や胃、小網、腹壁との位置関係が静脈ルートの形に大きく影響していることも明らかになりました。これは、血管発生を単独で見るのではなく、周囲臓器との立体的な関係の中で理解することの重要性を示しています。

今後は、今回の形態学的知見を、血流動態や分子発生学的な仕組みと結びつけることで、胎児循環の成立や先天異常の成り立ちをさらに詳しく理解できると期待されます。

本研究成果は、2024年3月9日The Anatomical Record 誌にオンライン掲載されました。


論文情報

タイトル
Regional differences in the umbilical vein and ductus venosus at different stages of normal human development

著者
Naoko Isotani, Toru Kanahashi, Hirohiko Imai, Akio Yoneyama, Shigehito Yamada, Tetsuya Takakuwa

掲載誌
The Anatomical Record

公開日
2024年3月9日

DOI
https://doi.org/10.1002/ar.25421


ひとこと紹介

胎児の体では、胎盤からの酸素豊富な血液が、臍静脈・静脈管・下大静脈を通って心臓へ運ばれます。本研究では、この重要な静脈ルートを三次元的に解析し、発生に伴う形の変化と、部位ごとに異なる特徴を明らかにしました。