小脳テントは、胎児の脳成長に合わせてどのように形づくられるのか
松成さんは、卒業研究で**小脳テント(tentorium cerebelli)**に注目し、胚子期から胎児中期にかけての形成過程を、脳そのものの成長とあわせて詳しく解析しました。

小脳テントは、成体では大脳と小脳のあいだに張る硬膜のひだで、頭蓋内を区画し、発達した大脳を支える重要な膜構造です。ヒトでは大脳の大型化に伴って、この構造の意義がとくに大きくなったと考えられています。しかし、その発生過程は非常に複雑で、いつ、どこから、どの方向に広がり、脳のどの部位と関係しながら最終形に近づくのかについては、これまで十分に理解されていませんでした。
そこで本研究では、CRL 9.2〜225 mmのヒト胚子・胎児64例を対象に、7テスラMRIおよび3テスラMRIを用いて頭部を撮像し、脳と硬膜を三次元的に再構築しました。解析では、小脳テントと大脳鎌、脳幹、小脳、大脳の位置関係を発生段階ごとに比較し、さらに矢状断上の複数のランドマークを用いて、小脳テントの傾きや位置変化を定量的に評価しました。
その結果、小脳テントの形成は、少なくとも3つの段階に分けて理解できることが分かりました。
まず胚子期では、小脳テントの外側ひだが伸びて、中脳の側方から背側へ向かって広がっていきました。この時期には、小脳テントと大脳鎌はまだ分かれており、頭頂後頭部には後のテント切痕や後頭部の陥入につながるような明瞭な陥入はまだみられませんでした。正中部では、小脳テントは間脳と前方の後脳のあいだに伸びる線状構造として観察され、発生初期には比較的高信号な凝集した間葉組織として認識されました。
次に胎児初期になると、大脳が後方へ成長して中脳の約半分を覆うようになり、小脳テントの形も大きく変化しました。頭頂後頭部では、硬膜の内層と外層の分離が広がり、後大脳の後方から小脳上面にかけて広い範囲で、小脳テントの基部となる領域が形成されました。この時期の三次元再構築では、小脳テントに2つの側方のくぼみと、頭頂後頭部の正中における1つの陥入が存在することが分かりました。つまり、この段階の小脳テントは、まだ一枚のなめらかな膜ではなく、大脳・中脳・小脳の位置関係に応じて複数方向へ張り出す複雑な立体構造を示していました。
そして胎児中期になると、大脳は中脳をほぼ完全に覆い、さらに後方へ成長して小脳に近づきます。これに伴って、小脳テントの側方のくぼみは目立たなくなり、頭頂後頭部の陥入と外側部の向きの違いも次第に解消されました。さらに、CRL 150 mm以降では、大脳が小脳の上面をより広く覆うようになり、小脳テントは大脳下面と小脳上面の形に沿って湾曲するようになりました。つまり、小脳テントは当初は比較的独立した方向性をもって形成されますが、発育が進むにつれて、脳の形そのものに適応する膜構造へと変化することが示されました。
定量解析でもこの変化が裏づけられました。小脳テントが頭蓋内空間を上テント・下テントに分ける比率は、胚子期には比較的一定でしたが、胎児期に入ると下テント側の相対的割合が減少し、CRL 150 mm前後でほぼ安定しました。これは、大脳の発達に伴って、頭蓋内で上テント空間が相対的に広がることを示しています。
また、小脳の最上部と小脳テントの位置関係をみると、小脳の成長に伴って、小脳テントの基部・先端は相対的に小脳に近づき、やがて小脳上面を覆うような位置関係になっていきました。これに対して、大脳後端と小脳最上部の位置関係も発生とともに変化し、大脳が小脳を上から覆う形へ移行していくことが明瞭に示されました。
この研究のポイント
- ヒト胚子・胎児64例のMRIを用いて、小脳テントと脳の三次元形態変化を解析しました。
- 小脳テント形成は、胚子期、胎児初期、胎児中期の3段階で特徴的な変化を示しました。
- 小脳テントは初期には独自の方向性をもって形成され、その後、大脳と小脳の成長に適応して湾曲することが明らかになりました。
今回の研究は、小脳テントの形成を、脳の成長と切り離さずに三次元的に理解した点で大きな意義があります。従来の研究では、特定時期の標本や正中断の計測に基づく議論が多く、小脳テント全体の立体構造がどのように変化するかは十分に示されていませんでした。本研究では、中脳屈曲の消失、大脳後方成長、小脳上面の発達といった脳形態の変化が、小脳テントの形成方向や曲率に深く関わることが示されました。
また、本研究は、小脳テントの形態を決める要因が、胎児初期と胎児中期で異なる可能性を示しています。胎児初期には、主に中脳や後脳との位置関係や硬膜層の分離が重要である一方、胎児中期には、大脳と小脳の相対的成長が小脳テント形態に大きく影響すると考えられます。
こうした知見は、正常発生の理解にとどまらず、後頭蓋窩の形成異常や硬膜構造の異常を考えるうえでも重要な基礎資料となります。今後は、硬膜静脈洞や頭蓋骨形成との関係をさらに詳しく解析することで、小脳テント形成のメカニズムがより深く理解できると期待されます。
本研究成果は、2022年11月3日に The Anatomical Record 誌にオンライン掲載されました。
論文情報
タイトル
Tentorium cerebelli formation during human embryonic and early fetal development
著者
Chieko Matsunari, Toru Kanahashi, Hiroki Otani, Hirohiko Imai, Shigehito Yamada, Tomohisa Okada, Tetsuya Takakuwa
掲載誌
The Anatomical Record
公開日
2022年11月3日
DOI
https://doi.org/10.1002/ar.25110
ひとこと紹介
小脳テントは、大脳と小脳のあいだを隔てる重要な硬膜構造です。本研究では、ヒト胚子・胎児のMRI三次元解析により、小脳テントが脳の成長に応じて段階的に形を変え、胎児中期には大脳・小脳表面に沿うように成熟していくことを明らかにしました。

