横隔膜は、どのように立体的に形づくられるのか
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横隔膜は、どのように立体的に形づくられるのか

CRL71 mm胎児右側面像

私たちの研究室では、ヒト発生の過程で、臓器がどのように立体的な形を獲得し、機能に必要な内部構造を整えていくのかを、高解像度画像と三次元解析によって調べています。今回、金橋徹さんを中心とする研究グループは、ヒト横隔膜に注目し、胚子後期から胎児初期にかけての形態形成と線維構築の発達を初めて三次元的に解析しました。

横隔膜は、胸腔と腹腔を隔てるドーム状の筋腱性シートで、呼吸運動に不可欠な器官です。その発生異常は、先天性横隔膜ヘルニア横隔膜弛緩症などの重い病態につながることがあります。そのため、正常な横隔膜がいつ、どのように閉鎖し、どの部位が筋性・腱性に分化していくのかを理解することは、胎児医学の基礎として非常に重要です。しかしこれまでの研究は主として組織学的観察に限られ、横隔膜全体の三次元形態や線維走行を発生段階に沿って解析した研究はありませんでした

そこで本研究では、Carnegie stage 16〜23のヒト胚子37例と、CRL 34〜88 mmのヒト胎児20例、計57例を対象に、位相コントラストX線CTT1強調MRI、**拡散テンソル画像(DTI)**を用いて横隔膜を解析しました。三次元再構築によって横隔膜の立体形態と厚みを可視化するとともに、DTIトラクトグラフィーを用いて線維の方向性を評価しました。

その結果、横隔膜はCS20までに完全に閉鎖することが明らかになりました。CS16〜17では左右の胸腹膜管が開存していましたが、CS18で一部に閉鎖例が現れ、CS19では大部分が閉鎖、そしてCS20では全例で左右とも閉鎖していました。これにより、胚子後期には胸腔と腹腔を分ける膜性横隔膜が完成することが示されました。

また、横隔膜の基本的な立体形態もこの時期に整っていきます。CS18にはすでに大動脈裂孔、食道裂孔、下大静脈孔の3つの裂孔が認められ、CS19では比較的平坦だった左右の横隔膜は、CS20以降に徐々にドーム状を呈するようになりました。さらに、右横隔膜のほうが左よりやや背腹方向に大きいという左右差も、CS22以降でみられました。

横隔膜は発生の早い段階から周囲臓器と密接に関係していました。最も早いCS16ですでに腹側で心臓と肝臓に接しており、CS19以降では背側で副腎とも接するようになりました。胎児期になると、CRL 41 mm以上で胃底部CRL 70 mm以上で脾臓とも接するようになり、横隔膜の形が周囲臓器の位置関係とともに整えられていくことが分かりました。

位置変化については、横隔膜の最も頭側の位置は、CS16では第7頸椎〜第1胸椎レベルにありましたが、CS16〜19の間に急速に尾側へ下降しました。その後、CRL 16 mm以上では第4〜第8胸椎の範囲に位置し、成長しても大きくは変わりませんでした。つまり、横隔膜の「下降」は主に胚子期前半〜中盤に急速に進み、その後は比較的安定した位置関係が保たれることが示されました。

さらに本研究では、横隔膜の厚みの変化も三次元的に評価しました。CRL 8〜41 mmでは、横隔膜全体の厚さはほぼ一様で、0.15〜0.2 mm程度でした。しかし、CRL 46 mm以降になると、まず食道裂孔周囲で厚みが増し、その後、大動脈裂孔周囲を含む腰部、肋骨部、胸骨部にも厚みの増加が広がりました。一方で、中央部および左右の横隔膜ドームの頂部では、成長しても厚みの増加はほとんどみられませんでした。この非肥厚領域の形は、成人でいう中心腱に相当する構造に似ており、横隔膜中央が筋性ではなく腱性構造として分化していく過程を示していると考えられます。

DTIトラクトグラフィーでは、CS19以降から胸骨部・肋骨部・腰部の線維方向が徐々に明瞭になり、CRL 46 mm以降ではより鮮明に観察されました。肋骨部と腰部の線維は、左右の横隔膜ドームに向かって走行しており、胸骨部前方の線維も中央へ向かっていました。これは、成人横隔膜にみられる基本的な線維配列が、胎児初期にすでに成立し始めていることを示しています。

一方で、中心部や左右ドーム頂部、また肋骨部と腰部の境界、肋骨部と胸骨部の境界では、FA値が低く、線維密度も低い領域が認められました。これらの部位は、筋性・腱性構造の境界や、発生学的に脆弱になりやすい部位に対応すると考えられます。

特に興味深かったのは、食道裂孔周囲の線維配列です。左右の脚(crus)から食道裂孔を取り囲む線維走行には3つのパターンが認められ、そのうち最も多い型は、右脚由来の線維が左右に分かれて食道裂孔を囲み、左脚由来の線維は左側のみを走るというものでした。この配列は成人で最も一般的とされる形に一致しており、食道裂孔の基本構造がすでに胎児初期に決定されている可能性を示しています。

この研究のポイント

  • ヒト横隔膜はCS20までに完全閉鎖し、その後ドーム状形態を発達させます。
  • CRL 46 mm以降、胸骨部・肋骨部・腰部・食道裂孔周囲で厚みと線維の明瞭化が進行し、筋性構造が発達します。
  • 中央部とドーム頂部は厚みが増えず、中心腱に相当する腱性構造への分化が示唆されました。

今回の研究は、横隔膜の発生を、単なる閉鎖の完了時期だけでなく、三次元形態、厚み、線維構築の変化まで含めて総合的に評価した点に大きな意義があります。これにより、横隔膜の発生は大きく、閉鎖の時期、形態の安定化の時期、筋・腱構築の分化が進む時期という段階に分けて理解できることが明らかになりました。

また、食道裂孔周囲や肋骨部・腰部境界などの特徴的な構造は、先天性横隔膜ヘルニアやMorgagniヘルニア、Bochdalekヘルニアなど、臨床的に重要な脆弱部位の成り立ちを考えるうえでも重要です。本研究は、そうした先天異常の背景を理解するための、正常発生の基礎データを提供するものです。

今後は、より後期の胎児期や異常例との比較を進めることで、横隔膜形成異常の発症機構にさらに迫ることが期待されます。

本研究成果は、2022年9月2日Journal of Anatomy 誌にオンライン掲載されました。


論文情報

タイトル
Three-dimensional morphogenesis of the human diaphragm during the late embryonic and early fetal period: Analysis using T1-weighted and diffusion tensor imaging

著者
Toru Kanahashi, Hirohiko Imai, Hiroki Otani, Shigehito Yamada, Akio Yoneyama, Tetsuya Takakuwa

掲載誌
Journal of Anatomy

公開日
2022年9月2日

DOI
https://doi.org/10.1111/joa.13760


ひとこと紹介

横隔膜は、胚子後期に閉鎖を完了したあと、胎児初期にかけて筋性・腱性構造を発達させていきます。本研究では、MRIと拡散テンソル画像を用いて、その三次元形態と線維走行の発生過程を初めて明らかにしました。